デリバティブプライシングの全体像

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全体像

例えば金利、為替、クレジットのバニラ商品及びエキゾチック商品を対象とすると、デリバティブプライシングの手順としては以下の通り。

  1. 各種カーブのキャリブレーション
    1. イールドカーブ
    2. 為替フォワードカーブ
    3. ハザードカーブ
  2. バニラオプションのプライシングモデルのキャリブレーション
    1. 金利スマイルモデル(SABRモデルなど)
    2. 為替スマイルモデル(会社によって異なる。Vanna-Volga法が有名だが、Vanna-Volga法は個別取引ごとに異なるパラメーターが使われるため、SABRモデルのようにこの段階で事前にキャリブレーションすることはできない)
  3. エキゾチック商品のプライシングモデルのキャリブレーション
    1. 金利モデル(Hull-Whiteモデルなど)
    2. 為替モデル(Local VolatilityモデルやBS-HWモデルなど)
    3. クレジットモデル(CIR-HWモデルなど)
  4. プライシング

キャリブレーションとプライシング

計算の段階としては大きくキャリブレーションプライシングに分かれる。
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キャリブレーションは下準備であり、プライシングに必要なパラメーターをあらかじめ求めておく段階である。パラメーターは、マーケットレートが再現するように求める。キャリブレーション後のパラメーターを使ってプライシングするとマーケットプライスが再現するように、パラメーターを設定する。

プライシングは、キャリブレーション後のパラメーターをインプットとして受け取り、そのパラメーターを用いてモデルプライスを求める段階である。

キャリブレーションしないといけないパラメーターの種類は大きく3種類に分かれる。

  1. カーブ
  2. バニラオプションのプライシングモデルのパラメーター
  3. エキゾチック商品のプライシングモデルのパラメーター

以下ではこれらを順番に説明する。

カーブ

イールドカーブやフォワードカーブなどである。カーブのイメージは、各将来時点における原資産価格の期待値を時点ごとに並べたものである。

スワップやフォワードなどの線形商品(デルタワンプロダクツと呼ばれる)は、カーブさえわかっていればプライシングできる。すなわち線形商品の場合はプライシングモデルが必要ないので、2.や3.のモデルパラメーターは不要であり、2.や3.のキャリブレーションも不要となる。

イールドカーブは金利におけるフォワードカーブのようなものである。
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まず真っ先にイールドカーブのキャリブレーションを行う。なぜなら為替フォワードカーブやハザードカーブのキャリブレーションには、インプットとしてイールドカーブが必要だからである(将来キャッシュフローをディスカウントするためにイールドカーブが必要となる)。

イールドカーブは、マーケットのスワップレートなどにフィットするように逆算される。
為替フォワードカーブは、マーケットの為替スワップポイントや通貨ベーシスに合うように逆算される。
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ハザードカーブは、マーケットのCDSスプレッドにフィットするように逆算される。
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バニラオプションのプライシングモデル

スマイルモデルやボラティリティモデルなどとも呼ばれるが、これはバニラオプション専用のプライシングモデルである。
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用途としては、マーケットで観測されるボラティリティスマイルを、権利行使価格(=ストライク)の方向に補間や補外をするのに用いる。つまりマーケットで観測できないストライクにおけるインプライドボラティリティを求めるのに使うモデルである。
インプライドボラティリティを求めるということはつまり、バニラオプションをプライシングすることと同義である。

スマイルモデルとして一般的なものには例えば、金利ならSABRモデル、為替ならVanna-Volga法など、株価ならSVIモデルなどがある。その他、Hestonモデルもスマイルモデルとして使われることがある。コモディティ(特にプレシャスメタル)は為替と同様にモデリングされることが多い。クレジットについてはボラティリティスマイルがマーケットで観測されないため、スマイルモデルを使うことはまれである(そもそもアットザマネーのボラティリティすら観測が困難な場合が多い)。
スマイルモデルの業界標準 | Quant College

スマイルモデルはバニラオプションのプライシングに必要なほか、エキゾチック商品のプライシングにおいても基本的に必要である。エキゾチック商品と呼ばれるものの中にはオプション性がない商品もあったりするが、エキゾチック商品の中でもエキゾチックオプションに限定すれば、プライシングにはスマイルモデルが必須となる。

スマイルモデルのパラメーターのキャリブレーションでは、マーケットで観測されるボラティリティとモデルボラティリティの差を最小化するように、最適化のソルバーによって試行錯誤的に求める。スマイルモデルのキャリブレーションにはインプットとして各種カーブが必要である。イールドカーブなどのカーブを先にキャリブレーションしておかないと、スマイルモデルのキャリブレーションはできない。

エキゾチック商品のプライシングモデル

エキゾチック商品とは、線形商品とバニラオプション以外の全てである。

メジャーな商品は次の通り。

これらの商品は、カーブとスマイルモデルだけでは適切にプライシングできない

カーブからは原資産価格の期待値(分布の中心)がわかる。
スマイルモデルからは原資産価格の分布(各満期における確率分布)がわかる。
ここで、スマイルモデルで得られるのは、今日(計算の基準日)から見た、各満期において各ストライクに到達する確率(つまり確率分布)である。

それに対して、エキゾチック商品のプライシングに必要なのは、今日から見た将来(各満期)の分布だけではなく、将来から見たさらに将来の(条件付き)分布である。将来から見たさらに将来における確率のことを遷移確率(推移確率)ということがある。

たとえば1年後における、さらに1年後の確率。これは今日から見て1年後から、今日から見て2年後の確率のことに等しい。1年後におけるマーケットの状態は今日の時点ではわからないため、1年後における状態について何かしら仮定を置いて、その条件のもとで、さらに1年後における状態を考える。よって遷移確率は1年後における状態に条件を付けたもとでの2年後の確率なので、条件付き確率となる。
フォワードスマイルと条件付き確率・推移確率の関係 | Quant College

この遷移確率を求めるために、スマイルモデルに加えて、エキゾチック商品用のプライシングモデルを用いる。たとえばプライシングモデルとしてLocal Volatilityモデルを用いると、スマイルモデルをインプットとして、DupireのLocal Volatilityの公式によりLocal Volatility、つまり遷移確率が求められる。
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