デリバティブの想定元本とは

回答

デリバティブ契約上のキャッシュフローを求めるのに使う「仮想的な」元本のことである。
実際にこの想定元本の金額を取引開始当初に支払わないといけない、というわけではない。
また、想定元本の金額だけ実際にそこにお金が存在しているわけではない。

日本語では「想定元本」だが、英語の契約書ではいろんな言い方があり、会社や商品によって異なる単語を使っている場合がある。例えば以下。

  • Notional
  • Nominal
  • Principal

金利スワップの場合

金利スワップであれば、想定元本は受け払いする利息額を決定するのに使う。

利息額=想定元本×年率の金利×付利期間

として求める。ここで、実際に受け払いする金額は想定元本ではなく、利息額である、という点に注意。想定元本はあくまで利息額を求めるのに使う「名目上の」元本である。

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想定元本を受け払いするケースは少ない

「元本」というと、取引開始時にその元本金額を差し入れないと取引できないようなイメージだが、デリバティブは必ずしもそうではない。想定元本を設定はするものの、デリバティブはもともとは、取引開始当初に何か金額を支払うようなものではなかった。

しかし例外的なケースがあるほか、リーマンショック後は店頭デリバティブ規制の影響で、証拠金の授受を行うようになっている。以下ではこれらの点について補足する。

例外1:為替予約(為替フォワード)、為替スワップ

為替予約の満期に発生するキャッシュフローは、想定元本それ自体を受け払いする、と見ることができるので、例外的なケースである。

ドル円の為替予約を考える。満期でドルを受け取り、円を支払う、という契約だったとすると、満期でドル元本金額を受け取り、円元本金額を支払う。これはまさに想定元本それ自体を受け払いするケースである。

このようにドルの受け取りと円の支払いを、(通貨をそろえずに)相殺しないで受け取りと支払いを別々に決済する方法を、フィジカルセトル(Physical Settle; 現物決済)という。

逆に、NDF (Non Deliverable Forward) のように、2通貨を別々に決済せず、片方の通貨(ドル)に倒して相殺した金額を受け取る、または支払う、決済方法をキャッシュセトル(Cash Settle; 現金決済、差金決済)という。

フィジカルセトルの為替予約、すなわち通常の為替予約であれば、想定元本それ自体を受け払いすることになる。ただしこれはデリバティブの中では例外ケースである、という捉え方でいいだろう。

例外2:通貨スワップの元本交換

通貨スワップの元本交換部分は為替スワップそのものであるから、為替予約の満期におけるキャッシュフローと同じようなものと考えることができる。

元本交換ありの通貨スワップの場合は、契約開始日 (Effective Date) のスポット日(2営業日後)に元本交換をする。ドル払い円受けの通貨スワップであれば、

・スポット日にドル元本を受け取り、円元本を支払う。
・その後は定期的に、ドル金利を支払い、円金利を受け取る。
・そして満期日には、ドル元本を支払い(借りたものを返済するイメージ)、円元本を受け取る(貸したものを返してもらうイメージ)。

このように通貨スワップではスポット日と満期日に元本交換が発生する。これが、実際に想定元本額それ自体のキャッシュフローが発生するという、例外的なケースである。

当初証拠金の授受

それ以外に、当初からキャッシュフローが発生するケースでいうと、当初証拠金 (Initial Margin; IM) の授受が挙げられる。これはリーマンショック後に導入された証拠金規制によって、段階的に義務化されている取引慣習である。

取引開始当初に、取引相手がデフォルトした際、その(勝ち)ポジションを清算するまでに被るかもしれない損失について、その金額をあらかじめ受け払いしておく。これが当初証拠金である。

自社が支払うと同時に、相手も支払う。この受け払いの金額は相殺されず(ネッティングされず)、別勘定で大切に保管される。

当初証拠金の金額はVaR(バリューアットリスク)と同様の方法で求める。

変動証拠金の授受

これも証拠金規制によって段階的に義務化されている取引慣習である。大手金融機関同士が取引するインターバンク市場においては、証拠金規制が適用される前から一般的に行われていた。これも当初証拠金と同様に、カウンターパーティリスクを削減するために行われるものである。

変動証拠金 (Variation Margin; VM) はFXの証拠金と同じような発想であり、市場変動によるデリバティブ取引の勝ち負けを、証拠金勘定の残高を増減させることで反映する、というものである。ただしインターバンク市場であればこの証拠金勘定の変化は「日次」で発生する。
・勝っていたら担保を受け取り、
・負けていたら担保を支払う。
ここで、「担保」というのはほとんどの場合、現金である。いわゆる有担保デリバティブ取引というのは、このVMのやり取りをしている取引、のことを指している。

重要なのは、VMでやりとりする金額は想定元本に比べて非常に小さい、ということである。これがまさにレバレッジと呼ばれるもので、勝ち負けに応じて実際に証拠金でやり取りする金額は小さいのだが、その勝ち負けの金額は、それよりも圧倒的に大きな想定元本額に基づいて計算されている。手元に少額の資金しかなくても、想定元本の大きい取引ができる、というのがデリバティブの特徴である。

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