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ノックアウトクーポンスワップとターゲットリデンプションフォワードの違い

ノックアウトクーポンスワップと、ターフ(TARF、ターゲットリデンプションフォワード)と呼ばれる商品は、似たもの同士であり、言葉の定義によって違う場合もあるが同じ場合もある。

結論だけ述べると、

  • ノックアウトクーポンスワップの「ノックアウト」が、「バリアノックアウト」であれば、TARFとは異なる商品である。
  • ノックアウトクーポンスワップの「ノックアウト」が、「ターゲットノックアウト」であれば、TARFと同一の商品である。

ということになる。

クーポンスワップを早期終了させる条項には2種類あって、ノックアウトクーポンスワップの「ノックアウト」がターゲットノックアウト条項であればTARFと同じになる。よって、ノックアウトクーポンスワップの具体例の1つとしてTARFがある、という理解でいいだろう。

ちなみにターフは人によって様々な呼び方があるので注意。

  • ターフ (TARF)
  • エフエックスターフ (FX TARF)
  • ターゲットフォワード (Target Forward)
  • ターゲットリデンプションフォワード (Target Redemption Forward)

ノックアウトなど複雑な条件付きのクーポンスワップについては、以下の記事も参照。
エキゾチック通貨スワップの特徴:ノックアウトクーポンスワップ、TARF | Quant College

ノックアウト条項には2種類ある

ノックアウト条項には2種類ある。

  1. バリアノックアウト
  2. ターゲットノックアウト

バリアノックアウトは、為替レートが契約で定められた水準(ノックアウト価格、ノックアウトレート)にヒットしたらそこで早期終了する。通常のバリアオプションでいうところのノックアウトと同じである。
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それに対して、ターゲットノックアウトは、観測された為替レートが、契約で定められた予約レートよりも円安であれば、その差分を累積していき、累積値が所定のターゲットレートを超えたら早期終了する。
すなわち、以下の計算結果を累積していき、ターゲットレートを超えたらノックアウトする。

\(\max \{S – K, 0.0\}\)

このターゲットノックアウトが付いた仕組債をターン(TARN)と呼ぶ。ターゲットノックアウトは、特に為替系でよく見られるノックアウトの種類であり、単一の為替レートを参照する商品をFX TARNと呼び、複数の為替レートを参照する商品をチューザーTARNと呼ぶ。

ノックアウトクーポンスワップとは

クーポンスワップの復習

まずクーポンスワップとは、異なる通貨の固定金額を交換する、元本交換なしの通貨スワップである。これはつまり、クーポンスワップはフラット為替とも呼ばれ、どちらも同じ商品を指している。

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例えばドル円のクーポンスワップであれば、

  • 3月、6月、9月、12月のスポット末日に
  • 1,000万円を支払い、10万ドルを受け取る(交換レート100円/ドル)
  • これを5年間繰り返す(20回受け払いする)

というものである。これはつまり、予約レート100円/ドルの為替予約を20個まとめて契約しているのと変わらない。

通常の為替予約は満期日が異なれば予約レートも変わるのだが、クーポンスワップでは全ての満期について予約レートが一定となっている。そういうわけで、クーポンスワップは為替系の部署では「フラット為替」という名前が付いている。

フラット為替とは | Quant College

バリアノックアウトクーポンスワップの例

例えばドル円のバリアノックアウトクーポンスワップであれば、

  • 3月、6月、9月、12月のスポット末日に
  • 1,000万円を支払い、10万ドルを受け取る(交換レート100円/ドル)
  • これを5年間繰り返す(20回受け払いする)
  • ただし交換日の10営業日前に観測された為替レートが120円/ドルを超えたら、それ以降の交換は行わず、契約が早期終了する

という感じである。
言い換えると、バリアノックアウト条項が付いた為替予約を、同じ予約レートで多数まとめて契約していることになる。

ドルの受け取りなので、円安・ドル高になると、受け取ったドルを円に直せば大きな金額が手元に残るのでお得になる。しかし、ノックアウトバリアが円安方向に付いているので、為替が円安に行き過ぎると、それ以降のメリットを取り損ねてしまう。ドルの受け取りサイドのメリットに上限が付いているイメージである。

ターゲットノックアウトクーポンスワップ(=TARF)の例

一方、ドル円のターゲットノックアウトクーポンスワップであれば、

  • 3月、6月、9月、12月のスポット末日に
  • 1,000万円を支払い、10万ドルを受け取る(交換レート100円/ドル)
  • これを5年間繰り返す(20回受け払いする)
  • ただし交換日の10営業日前に観測された為替レートが交換レートを超えていれば、為替レートと交換レートの差分を累積値に加える
  • 累積値が20を超えたらそれ以降の交換は行わず、契約が早期終了する

という感じである。
言い換えると、同じ予約レートで多数まとめて契約した為替予約の全体が、1つのターゲットノックアウト条項で包まれていることになる。

ドルの受け取りなので、円安・ドル高になると、受け取ったドルを円に直せば大きな金額が手元に残るのでお得になる。しかし、ターゲットノックアウト条項が円安方向に付いているので、ある程度の期間、為替が円安に振れていると、累積値がターゲットレートに到達し、それ以降のメリットを取り損ねてしまう。ドルの受け取りサイドのメリットに上限が付いているイメージである。

重要なこととして、上記のようなターゲットノックアウト条項が付いているクーポンスワップは、TARFと呼ばれる商品と同一である、思っておけばよい。

TARF(ターフ)とは

TARFとは、ターゲットノックアウト条項が付いたクーポンスワップである。
すなわち、

TARF
=ターゲットノックアウトクーポンスワップ
=ターゲットノックアウトフラット為替


ということになる。

TARFについては以下の記事も参照。
FX TARFとはどんな商品か | Quant College
FX TARFの具体的な商品性 | Quant College
FX TARFのプライシング | Quant College

ここで、実際には、TARFやターゲットノックアウトクーポンスワップには、上記で説明したターゲットノックアウト条項以外にも、特殊条項が付いていることが多い。

  • ギャップ条項
  • レバレッジ条項(=レシオ条項)

まず、ギャップ条項とは、ある程度深くインザマネーにならないと権利行使できないが、ひとたび権利行使されると急に大きな損失が出る条項である。

ギャップオプションとは | Quant College

次に、レバレッジ条項とは、為替が交換レートよりも円高だった場合には、交換金額が2倍や3倍になる条項である。為替が円高に振れると、証券会社の顧客サイドが損をするケースが多いが、レバレッジによってその損失が大きくなってしまう。このような不利な条項を顧客がどうして受け入れるかというと、その分だけ交換レートが顧客にとって有利なレートに設定できるからである。

レシオフォワードのプライシング | Quant College

TARFは複雑な(エキゾチックな)為替デリバティブの典型例である。
TARFは為替予約(=為替フォワード)をベースにしてはいるが、実際に取引される商品は、直接、為替フォワードの形で取引するのではなく、為替フォワードをコールとプットの通貨オプションに分解して組成することが多い。

フォワードの買いをコールオプションの買いとプットオプションの売りに分解する、シンセティックフォワードについては、以下の記事を参照。

プットコールパリティは何に使うのか | Quant College
シンセティックフォワードとは(マルチシンセティックフォワードとは) | Quant College

参考文献

FX Barrier Options: A Comprehensive Guide for Industry Quants (Applied Quantitative Finance) (English Edition)

FX Options and Structured Products (The Wiley Finance Series) (English Edition)

Foreign Exchange Option Pricing: A Practitioner’s Guide (The Wiley Finance Series Book 626) (English Edition)

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