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はじめに

Black-Scholesモデルは何とかわかったものの、金利の期間構造モデルになると急にわからなくなる、という学習者は多い。そこで本記事では、金利の期間構造モデルに特有のつまづきポイントを列挙しつつ、期間構造モデルの特徴をざっくり説明してみたい。

つまづきやすいポイント7選

  1. 期間が違えば別の原資産として扱う
  2. 観測日,付利開始日,付利終了日の区別
  3. spot系,forward系,par系の金利が登場
  4. 単利,年n回複利,連続複利が登場
  5. リスク中立測度以外の測度が複数登場
  6. 資産価格ではないもの(金利)をモデル化
  7. 市場で観測できない金利をモデル化

これらを分類すると、

  • 1と2:
    期間構造が存在することの意味、そしてそれに起因する「多資産モデル」という点が理解できずに「なんもわからん」となる
  • 3と4:
    いろんな種類の似たような金利が多数出てきて「なんもわからん」となる
  • 5:
    金利を確率的にしたこと、そして期間構造の存在、が原因で、測度変換が繰り返し出てきて「なんもわからん」となる
  • 6と7:
    株や為替とはモデル化する対象の特徴が異なるので「なんもわからん」となる

期間構造と多資産モデル

まず金利の期間構造は、期間が異なる金利は相関しつつも別々に動くことである。

イメージとしては、期間1年の円金利と期間10年の円金利は、だいたい似たような動きをするだろうが、1年金利は上がったけれども10年金利は下がったとか、1年金利に比べて10年金利の方が大きく上がったとか、ということが起こる。

というわけで、同じ円金利であっても、期間が異なる金利は別物として扱う必要が出てくる。なので、期間の数だけ異なる原資産があり、それらをまとめて表現できる1つのモデルを考えることになる。これが期間構造モデルである。

イメージとしては、1年金利、2年金利、3年金利、・・・、20年金利、25年金利、30年金利、と多数の原資産があり、これらをまとめて1つの期間構造モデルで表現する。そういう意味で、期間構造モデルは「多資産モデル」と考えるとわかりやすい。

逆に言うと、期間の異なる金利を別の原資産としてとらえ、それらをまとめて1つのモデルで表現したい場合に限り、金利の期間構造モデルを用いる。
金利モデルには通常のSABRモデルなど、期間構造モデルではないモデルも多数あるが、それらは期間の違う金利は別のモデルで表現するので、期間の数だけ異なるモデルパラメーターが必要になる。実際、SABRモデルはオプション満期とスワップ期間の組み合わせごとに、異なるモデルパラメーターを用いる。

期間の異なる金利を1つにまとめて一斉にモデリングすることを指して、金利の期間構造モデルは「イールドカーブ全体をモデリングする」、と説明されることもある。イールドカーブ1本を1つのモデルで表現するのであって、期間ごとに金利を別のモデルで表現するわけではない。つまりイールドカーブからいくつかの期間を切り出して、1年金利のモデル、2年金利のモデル、3年金利のモデル、・・・、というようには表現しない、ということだ。

期間の違う金利を別々に扱うことので、付利開始日と付利終了日の組み合わせが違う金利は別物として区別する。付利開始日から付利終了日までの間、金利が発生する。金利が発生する期間のことを付利期間と呼び、この付利期間が異なる金利を別々に扱う。よって、付利開始日と付利終了日の組み合わせが違う金利は異なる金利として数式上も表現する。

観測日を明示するのは当たり前だが、特に、金利の期間構造モデルを用いる状況というのは必ず、金利が確率的に動くと仮定することになるので、観測日が異なれば違う値をとっていることになる。特に期間構造モデルを用いる場合は、観測日ごとにイールドカーブ全体が変化する。金利の期間構造モデルで金利をシミュレーションするとはつまり、観測日ごとのイールドカーブの推移をシミュレーションしていることになる。

似たような金利が多数出てくる

金利の期間構造モデルを勉強していると、いろんな種類の金利が出てくる。
金利の分類について、

  • 1つめの軸は「いくつの満期が関係する金利か」
  • 2つめの軸は「単利や複利の種類はどれか」

1つめの軸で分類すると3種類ある。

  • スポットレート系の金利:1つの満期が関係する金利
  • フォワードレート系の金利:2つの満期が関係する金利
  • パーレート系の金利:複数のフォワードレートをならして平均した金利

パーレートだけは少し種類が異なるが、3つに分類するなら上記のようになるだろう。

スポットレートのイメージは、満期T1の割引債価格を金利になおしたもの。
フォワードレートのイメージは、満期T1の割引債価格と、満期T2の割引債価格から、時点T1とT2の間の金利を求めたもの。
パーレートのイメージは、満期T1、満期T2、・・・、満期Tnの割引債価格たちから、各期間(T0からT1、T1からT2、・・・、Tn-1からTn)のフォワードレートたちを求め、それらをならして平均したようなもの。

スポットレート系の金利としてショートレートがあり、ショートレートモデルとしてはHull-WhiteモデルやCIRモデルなどが教科書に出てくる。
フォワードレート系の金利として瞬間フォワードレート (instantaneous forward rate) やフォワードLiborレートがあり、瞬間フォワードレートモデルにはHJMモデルやCheyetteモデル、LiborレートにはLiborマーケットモデルなどが教科書に出てくる。
パーレート系の金利としてスワップレートや、債券の複利最終利回りなどがある。

2つめの軸で分類すると、以下の3つ。

  • 単利
  • 年n回複利
  • 連続複利

単利の金利として代表例はLiborレートだが、その他、ターム物レートと呼ばれるレートには単利が多い。Libor廃止後に出てきた金利として、ターム物RFRがあり、これらは単利である。ターム物RFRは日本円ではTORFがある。

年n回複利は、デリバティブではあまり出てこないが、債券では頻出である。日本国債であれば年2回複利がよく出てくる。

デリバティブで複利を扱う場合は数式展開のしやすい連続複利を使う。デリバティブでは、LiborなどのIborとターム物RFRなど以外は、連続複利と思っておいてもいいだろう。

測度変換が繰り返し出てくる

金利を確率的にすると、リスク中立測度とフォワード測度が別物になるため、リスク中立測度からフォワード測度への測度変換が出てくる。これは数式展開しやすくするためでもある。

また、フォワード測度は基準財である割引債の満期Tが違えば異なる測度なので、T-フォワード測度などと書いて、T1-フォワード測度とT2-フォワード測度などを区別する。そのようにする理由は、金利に期間構造がある、つまり、満期の異なる割引債が別々の原資産として扱うからである。(このことからも金利の期間構造モデルが多資産モデルであることがよくわかる。)したがって、あるフォワード測度から別のフォワード測度への測度変換が出てくるので、測度変換の理解があやふやだとここでつまづいてしまう。

モデル化の対象が特徴的

金利は、株や為替やコモディティとはモデル化の対象が大きく異なる。
株や為替やコモディティでは(キャッシュを含め)資産価格をモデル化する。株なら株式の価格、為替なら外貨キャッシュの価格、コモディティなら商品の価格。

しかし金利モデルでは通常、金利をモデル化するので、資産価格ではないものをモデル化していることになる。金利は資産価格ではないが、割引債価格は資産価格であることに注意。デリバティブの分野では無裁定条件を課すことになるが、これは金利ではなく資産価格の間の無裁定を考えるので、金利から割引債価格に変換しないといけない。このとき、数式展開が必要になる。このひと手間の段階で多くの初学者が脱落してしまう。しかし金利でなく債券価格を直接モデル化する流儀もあり、その場合はこの問題を回避できる。

次に、金利の期間構造モデルでは市場で観測されない金利をモデル化することが多い。例えばショートレートや瞬間フォワードレートである。これらは極限操作によって出てくる架空の金利であるため市場で観測されない。

しかしモデルをマーケットのフィットさせる(キャリブレーションする)ためには、市場でトレードされている商品の価格をモデルで求めないといけない。例えばスワップションやキャップ・フロアである。スワップションであればスワップレート、キャップ・フロアであればLiborなどのターム物レート、に対するデリバティブなので、これら市場で観測される金利の分布が必要になる。

ところがモデルではこれらの金利は直接モデル化されていないので、モデル化した架空の金利から、市場で観測される金利に変換しないといけない。これまた数式展開が必要になり、場合によっては近似解を求める必要がある。これら数式展開の途中でも多くの初学者が挫折してしまう。

もっとも、市場で観測される金利を直接モデル化する「マーケットモデル」なら当然これは問題にならない。マーケットモデルにはLiborマーケットモデル(LMM)などがある。(LMMは表現方法が様々な組み合わせにより多数存在しており、著者によって異なる書き方をしたりするので混乱しやすい、というLMM固有のつまづきポイントもある。)LMMは特に日系金融機関では以前、幅広く用いられていたが、最近ではLMMを使う場面が減り、Hull-Whiteモデルを拡張したモデルなど、ショートレートモデルや瞬間フォワードレートモデルが使われるケースが増えた印象である。

参考文献

Interest Rate Swaps and Their Derivatives: A Practitioner’s Guide (Wiley Finance Book 510) (English Edition)

Interest Rate Derivatives Explained: Volume 1: Products and Markets (Financial Engineering Explained) (English Edition)

Interest Rate Derivatives Explained: Volume 2: Term Structure and Volatility Modelling (Financial Engineering Explained) (English Edition)

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