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フォワード為替レートが担保通貨によらないという仮定

為替フォワードや通貨ベーシスからUSD担保JPY割引カーブを構築する方法、さらにそれを用いてJPY担保USD割引カーブを構築する方法については、過去にざっくり説明してきた。

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本記事では特に、JPY担保USD割引カーブを構築する際に用いる以下の仮定:
「フォワード為替レートが担保通貨によらない」
について補足説明する。

この仮定は理論的な論文でもよく出てくるほか、金融機関の実務でも幅広く使われている。

仮定なのか、それとも真実なのか

「フォワード為替レートが担保通貨によらない」
として計算を進めるのは、
・都合が良いので使われている仮定なのか、
・それとも、正しいことが確認されている真実なのか、
どちらかというと、これはあくまで「仮定」である

なぜかというと、正しいか否かを確認する手段がなく、真実かどうか判断のしようがないからである。

フォワード為替レートは市場で観測されるデータから求めるしかないのだが、データとしては大きく以下の2つがある。

・為替フォワードポイント(為替スワップポイント)
・通貨ベーシス

しかしこれらはどちらも、基本的にはUSD担保前提のデータしか取得できない。金融市場は基軸通貨であるUSD(米ドル)を中心に構成されており、複数通貨に及ぶ商品はたいてい、USDを基準にマーケットレートを呈示する決まりになっている(一部の東欧通貨などはEUR基準なので例外だが)。

フォワード為替レートが担保通貨によらないかどうか、を確認するには、様々な担保通貨におけるフォワード為替レートを市場で観測できないといけない。一般にデリバティブでは「市場で観測されるデータが正解である」という前提で計算を進める。したがって市場で観測できないデータについては、なんらかの仮定をおいて進めるしかない。様々な担保通貨におけるフォワード為替レートは、市場で観測できない以上、正解がわからないのである。

そこで何か仮定をおく必要があるのだが、できるだけ話がややこしくなることは避けたい。そういう文脈で登場するのが「フォワード為替レートが担保通貨によらない」という仮定なのである。

実際、この仮定をおくことでフォワード為替レートは一意に定まり、担保通貨ごとに異なるレートを保持しておく必要がなくなる。さらに、この仮定をおくことで、フォワード為替レート間に「FXトライアングル」が成り立つというメリットがある。FXトライアングルとは例えば、
EUR/USDレート×USD/JPYレート=EUR/JPYレート
が成り立つことである。これが成り立たないと、理論上は裁定取引が可能となる。

しかし実は上記の説明はあまり正確ではない。正確には、「フォワード為替レートが担保通貨によらない」というのは仮定ではなく、より技術的な仮定である「無リスク金利と担保金利の差分が時間に関して確定的な関数である」という仮定をおくと、その結果として「フォワード為替レートが担保通貨によらない」ことになる。しかし実務上は、「フォワード為替レートが担保通貨によらない」のほうが直感的に解釈しやすいため、あまり細かいことは気にしないで、「フォワード為替レートが担保通貨によらない」と仮定する、というように説明することが多い。正確なことを知りたい読者は以下の文献などを参照するといいだろう。
A Market Model of Interest Rates with Dynamic Basis Spreads in the Presence of Collateral and Multiple Currencies by Masaaki Fujii, Yasufumi Shimada, Akihiko Takahashi :: SSRN

フォワード株価などにも適用される仮定か

株価の場合にも、フォワード株価が様々な担保通貨ごとに違う値がクォートされているかというと、そうではない。したがって、フォワード株価においても為替と同様の仮定をおくのは自然なことだと思われる。

例えば、(東証の)トヨタ株なら株価は円建てでクォートされており、株価はトヨタ株と円現金との交換レートを示している。株価に関連する市場データから求められるフォワード株価は円担保前提と考えるのが自然である(例えば金利、配当、レポレートから求めたフォワード株価は円担保前提のものになる)。

ここで、トヨタ株のフォワード(先渡し)取引をドル担保で行った場合を考える。
時価評価に用いるフォワード株価は、円担保前提で求めたフォワード株価をそのまま使うだろう(フォワード株価が円担保とドル担保で変わらないと仮定していることになる)。
しかし時価評価に用いる割引金利は、ドル担保の円割引カーブである。
(通常のフォワード取引なら満期のキャッシュフローは円建てで支払われるので、円キャッシュフローをドル担保前提で割り引く。クオントフォワード取引なら、トヨタの円建て株価を参照するがドル建てで支払う、といった場合もあるが、ここでは考えない。)

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