こちらもおすすめ
QuantLib-Pythonチュートリアル(スワップイールドカーブ編その4)をリリースしました。 | Quant College
QuantLib-Pythonチュートリアル(スワップイールドカーブ編その3)をリリースしました。 | Quant College
QuantLib-Pythonチュートリアル(導入編)をリリースしました。 | Quant College
マーケットコンベンションのまとめ(マイナー通貨のスワップ編その1)をリリースしました。 | Quant College
マーケットコンベンションのまとめ(メジャー通貨のスワップ編)をリリースしました。 | Quant College
解説
前回の記事は、市場の通貨ベーシスからイールドカーブを生成する、いわゆるキャリブレーションの段階だったが、
今回は、生成済みのイールドカーブを用いて、有担保のスワップをプライシングする際の注意点について記載する。
例によってUSD担保またはJPY担保の、USD/JPY通貨スワップのみを考える。
まず、通貨ベーシスから生成したカーブはよく、クロスカレンシーカーブといわれるが、これが必要になるのは、
担保通貨がキャッシュフロー通貨と異なる場合である。
担保はUSDだがキャッシュフローはJPY、あるいはその逆、といった場合である。
クロスカレンシーカーブは今の場合、以下の2つが考えられる。
・USD担保JPY OISディスカウントカーブ
・JPY担保USD OISディスカウントカーブ
USD/JPY通貨スワップの場合、USDサイドとJPYサイドの交換をするわけなので、
USD担保の場合は、
USDサイドは通常のUSD OISディスカウントカーブでよいが、JPYサイドが問題になる。
JPYサイドは、キャッシュフローはJPYだが担保はUSDなので、USD担保JPY OISディスカウントカーブを用いて割り引く必要がある。
よって、USD担保の場合にはUSDサイドの評価には通貨ベーシスによる調整が入らず、JPYサイドの評価にのみ通貨ベーシスが織り込まれる。
逆に、JPY担保の場合は、
JPYサイドは通常のJPY OISディスカウントカーブで割り引き、
USDサイドはJPY担保USD OISディスカウントカーブで割り引く。
よって、JPY担保の場合にはUSD担保の場合とは逆に、USDサイドの評価にのみ通貨ベーシスによる調整が入る。
日系企業によくある間違いとしては、
市場の通貨ベーシスはJPYサイドに乗るスプレッドとしてクォートされているから、
JPY担保のUSD/JPY通貨スワップにおいて、
USDサイドには通貨ベーシスによる調整を反映せず、JPYサイドにクロスカレンシーカーブを適用することで、
市場のクォートと同様に、JPYサイドを通貨ベーシスで調整する、というものがある。
ここで用いられるクロスカレンシーカーブは、市場の通貨ベーシスから直接に生成したものであるから、
USD担保JPY OISディスカウントカーブである。
このようなことをしてしまうと、プライシング対象の取引はJPY担保であるにもかかわらず、
評価上はUSD担保として評価されてしまう。
これは、イールドカーブ生成とプライシングを混同している典型的な誤りである。
イールドカーブ生成においては、市場でクォートされている金利のコンベンションに従うため、
通貨ベーシスはUSD担保前提として考える。
よって、USDではなくJPYサイドに対して通貨ベーシスの調整を反映させるため、
イールドカーブ生成において取得できるのは、USD担保JPY OISディスカウントカーブである。
一方、プライシングにおいては、市場でクォートされている金利のコンベンションとは関係なく、
プライシング対象の取引が、JPY担保なのか、USD担保なのか、が問題となる。
JPY担保の取引である場合には、JPYサイドではなく、USDサイドに通貨ベーシスの調整を入れなければならない。
JPY担保のUSD/JPY通貨スワップで必要になるのは、USD担保JPY OISディスカウントカーブではなく、
JPY担保USD OISディスカウントカーブである。
このような間違いが生じる背景にあるのは、
市場でクォートされている通貨ベーシスのマーケットコンベンションは、あくまで外資系金融機関の目線で設定されているからである。
米銀から見れば、無担保でファンディングしてくる通貨はUSDが多く、したがって、担保通貨もUSDを選ぶことが多い。
このため、通貨ベーシスもUSDを基軸にして考える。
通貨ベーシススワップにおいて、仮にUSDを担保として差し出せば、
USD以外の通貨の金利を、どれだけ免除してもらえるか、
という目線でマーケットの通貨ベーシスはクォートされている。
一方で、日系企業から見ると、JPYを基軸にして考え、担保を交換する場合にはJPYでないと困るため、JPY担保の取引が多い。
すると、マーケットクォートはUSD担保だが、プライシングする取引はJPY担保、というケースがほとんどであり、
担保通貨について、マーケットクォートのコンベンションと、プライシングする対象の取引条件が、乖離してしまっている。
これにより、知識の少ない日系企業担当者が混乱してしまい、
マーケットクォートのコンベンションにしたがって生成したクロスカレンシーカーブは、
実際にはUSD担保JPY OISディスカウントカーブなのだが、
これをJPY担保のJPYキャッシュフローの割り引きに適用してしまう、
という事態が生じたわけである。
こちらもおすすめ
QuantLib-Pythonチュートリアル(スワップイールドカーブ編その4)をリリースしました。 | Quant College
QuantLib-Pythonチュートリアル(スワップイールドカーブ編その3)をリリースしました。 | Quant College
QuantLib-Pythonチュートリアル(導入編)をリリースしました。 | Quant College