今回は有担保の場合を考える。
まず重要な仮定として、以下を導入する。
仮定
フォワード為替は担保通貨によらない
これは市場慣行となっている仮定だが、これを認めると、
市場で観測されるドル担保のフォワード為替
= 円担保のフォワード為替
となる。つまり、
スポット為替 × ドル担保ドルDF ÷ ドル担保円DF
= スポット為替 × 円担保ドルDF ÷ 円担保円DF
となるが、これを言い換えると、
ドルOIS DF ÷ 通貨ベーシス込み円DF
= 円担保ドルDF ÷ 円OIS DF
となる。
ここで前回の方法1を見てみよう。
方法1
ドルのキャッシュフローを市場のフォワード為替で円転して、通貨ベーシスなしの円金利で割り引く
ここで先ほどの仮定を用いると、
方法1
= ドルCF × 市場のフォワード為替 × 円OIS DF
= ドルCF × 市場のフォワード為替 × 円担保円DF
= ドルCF × 円担保のフォワード為替 × 円担保円DF
= ドルCF × (スポット為替 × 円担保ドルDF ÷ 円担保円DF) × 円担保円DF
= ドルCF × スポット為替 × 円担保ドルDF
となる。円担保円DFは約分されて消える。これはつまり、ドルのキャッシュフローを円担保ベースで割り引いて、スポット為替で円転していることになる。
よって、フォワード為替を用いる方法1は、円担保取引において正しい方法であるが、ドル担保においては正しくない。
邦銀が持っているのはほとんど円担保取引であるから、邦銀にとってはたいてい、方法2は誤りで、方法1が正しいということになる。
一方で、方法2は何だったか思い出すと、
方法2
= ドルCF × ドルOIS DF × スポット為替
= ドルCF × ドル担保ドルDF × スポット為替
これはまさしくドル担保における評価である。
ドル担保取引であれば、方法2が正しく方法1は誤りとなるが、
邦銀が持っているのは円担保取引であるから、方法2は誤りである。
円担保の場合に正しいのは、
方法2の修正版
= ドルCF × 円担保ドルDF × スポット為替
である。しかしこれは上で見たように、まさしく方法1そのものである。
つまり、方法1と方法2の違いは結局のところ、
ドルCFの割り引きに円担保ドルDFを用いるのか、それともドル担保ドルDFを用いるのか、の違いしかない。
では、正しい方法1で出てきた円担保ドルDFはどう作るのかというと、先ほどの関係式
ドルOIS DF ÷ 通貨ベーシス込み円DF
= 円担保ドルDF ÷ 円OIS DF
を使う。つまり、
円担保ドルDF
= ドルOIS DF × 円OIS DF ÷ 通貨ベーシス込み円DF
= ドル担保ドルDF × 円担保円DF ÷ ドル担保円DF
と求める。誤りの方法2で用いているドルOIS DFとの違いは、
円OIS DF ÷ 通貨ベーシス込み円DF
をかけていることである。
これが通貨ベーシスによる調整部分であり、ベーシスが分母にきていることから、円担保だと、ベーシス分だけ、ドルの割引金利が下がることになる。
しかしながら、市場のドル円の通貨ベーシスはマイナスなので、円担保だと、逆にベーシスの絶対値の分だけ、ドルの割引金利は上がることになる。
つまり、ドルOISよりも高い金利で割り引かないといけないわけである。
まさしくそれと同じことを行なっているのが方法1である。
しかし実務上は、長期のフォワード為替が、観測できないか、もしくは観測できたとしてもあまりアテにならないレートだという問題がある。
このため普通は、長期ゾーンではフォワード為替ではなく通貨ベーシスからドル担保円DFを求め、先ほどの式
円担保ドルDF
= ドル担保ドルDF × 円担保円DF ÷ ドル担保円DF
から円担保ドルDFを求めることになる。
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