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ローン(貸出)におけるRFR移行
金利スワップなどデリバティブではLIBORから後決め複利RFRに移行しているが、ローン(貸出)ではLIBOR廃止後の移行先が複数出てきており、市場が分断される恐れがある。ここでは日本円に限定して話を進める。
論点としては以下のような感じだろうか。
- そもそもローン契約上の後継金利を何にするか
- 評価上の割引カーブを何にするか(一律TONAで割り引くのか、シングルカーブ前提つまりローンの参照金利に合わせてしまうのか)
- 後継金利としてTORFを選択した場合、TORFカーブをどう求めるか(現状TORFスワップやTORFベーシスが観測されない)
- 後継金利としてDTIBORを選択した場合、DTIBORカーブをどう求めるか(TONA vs DTIBORベーシスか、ZTIBOR vs DTIBORベーシスか)
- 後継金利として後決め複利TONAを選択した場合、後決め金利の経過利息をどう求めるか
後継金利を何にするか
日本円のローンにおけるLIBORからの移行先は以下の通り。
- TORF(ターム物TONA)
- DTIBOR(日本円TIBOR)
- 後決め複利TONA
おそらくメジャー度合いも上から順番にこの通りだろう。
日銀の資料を見ても、ローンにおける優先順位はターム物RFRが第一順位となっており、やはり後決め複利ではなく前決めのターム物レートが好まれている。
LIBORからの移行は新規取引と既存取引を分けて考える必要がある。
新規取引については、ローンではTORFとDTIBORが多いようだ。あくまでメインはTORFになっていくと思われる。
既存取引については、契約書にフォールバック文言を追加する必要がある。LIBORのフォールバック先として契約書で指定する金利が後継金利ということになる。日本円のローンではTORFにフォールバックする文言を追加されたものが多いようだ。
ざっくり考えると、
・既存取引はTORFにフォールバックするのがメイン
・新規取引はTORF、DTIBORがメインで、後決め複利TONAはかなり少数派
になりそうだ。
債券の新規取引では、一部の超大手企業が後決め複利TONAの社債を発行している。これはスワップでの金利リスクヘッジも合わせて考えた結果と思われる。
評価上の割引カーブを何にするか
ローンでは長らくLIBORディスカウント、つまりLIBORカーブによる割引が行われていたようだが、LIBORカーブが作れなくなるということで、割引カーブの選択をやり直さないといけない。
デリバティブでは有担保取引が前提となっているので、割引カーブは担保に付利される金利に対応するものを使う。円担保ならTONAカーブである。
しかしローンでは有担保か無担保かという話は関係ないので、割引カーブの選択は独自の方針で行われるだろう。
LIBORカーブの代替として、理論的なことは何も考えず、何となくTONAカーブを使うケースが出てきそうである。
それ以外には、今までのやり方と同様、契約上の参照金利と割引金利を一致させるシングルカーブアプローチで選択する、ということも考えられる。この場合、TORFローンはTORFカーブで割り引き、DTIBORローンはDTIBORカーブで割り引く、ということになる。これには理論的根拠は特にないと考えられるが、簡便性の観点からローン市場では実際に使われる可能性が十分にある。
TORFカーブをどう作るか
TORFカーブを作るのに使うマーケットレートとして想定されるのは次の通り。
- TORFスワップレート(現状、一般的には観測できない)
- TONA vs TORFベーシス(現状、一般的には観測できない)
問題なのは、流動性のあるマーケットレートが現状、取得できないということである。したがってTORFカーブを真正面から作ることはできない状況である。
現在、TORFを参照する商品を評価するには、上記のような状況であるから、やむを得ず、TORFカーブの代わりとしてTONAカーブを使う、ということが行われている(というか、それ以外に有力な方法がない現状である)。
DTIBORカーブをどう作るか
DTIBORカーブを作るのに使うマーケットレートとして、使えそうなのは以下の2つ。
- ZTIBOR 6M vs DTIBOR 6Mベーシス
- TONA vs DTIBOR6Mベーシス
1つめは従来から使われていたもので、ZDベーシスやDZベーシスなどと呼ばれる。このベーシスは、LIBOR公表停止後もZTIBORは存続することから、今後も使うことができるだろう。しかしZTIBORは将来的に廃止してDTIBORに一本化する予定になっているので、いつかはZDベーシス・DZベーシスも使えなくなる日が来ると思われる。
2つめはTONAとDTIBORのベーシスで、これは新しく出てきたマーケットレートである。新規のレートではあるが、TONAもDTIBORもニーズがあるということで、今後もTONA vs DTIBORのベーシススワップは一般的にトレードされていくと思われる。
後決め複利TONAの経過利息をどう求めるか
経過利息とは、金利の付利期間の途中でローンを譲渡する場合、付利期間が開始してからローン譲渡日までに発生する金利である。
この金利は付利期間の終了日(から数営業日後)になるまで支払いがなされないので、ローンの金利受け取りサイドから見れば、付利期間の途中で譲渡すると、受け取れるはずだった金利が受け取れなくなる。
このため、ローンを譲渡されるサイドが、ローンを譲渡するサイドに対して、ローン譲渡日までの(付利期間の途中までの)金利を支払うことでフェアな状態にする。
しかし付利期間の途中までの金利というのを、後決め複利の場合にどう求めるか、という問題がある。
毎営業日、日次で決定される金利を、毎営業日、複利で転がしていくことになる。
1つめの方法は、ローン譲渡日までに複利で転がしたレートをもとに経過利息を求める、というものである。譲渡日までの複利結果(複利の途中経過)であれば、すでにわかっている値だから、それをもとに、付利期間開始日からローン譲渡日までの利息を計算する。
2つめの方法は、
- 付利期間終了日(=将来時点)までの「全体の」金利を求める
- ローン譲渡日までの複利結果と、イールドカーブから得られるフォワードレートを組み合わせることで求める
- その「全体の」金利のうち、付利期間開始日からローン譲渡日までに対応する割合を期間按分して、経過利息を求める
というものである。要は、ローン譲渡日の段階では不明な、まだ複利計算に含まれていない将来金利の部分を、イールドカーブから求まるフォワードレートで置き換えて「全体の」金利を求める。
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