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参考文献
実践デリバティブ: Excelでデータ分析TONAとTORFの違い5選
結論として、次のような違いがある。
- レートの公表主体の違い
- 後決め金利 vs 前決め金利
- ターム物 vs 翌日物
- デリバティブ市場向け vs キャッシュ市場向け
- 算出の基礎となる取引の違い
これらについて以下で順番に見ていく。
1.レートの公表主体の違い
- TONAは日本銀行が公表する
- TORFはQUICKベンチマークス社が公表する
TONAは日銀がかなり前から公表していた金利指標である。
一方、TORFは最近になってQUICKベンチマークス社が公表を開始した新しい金利指標である。
2.後決め金利 vs 前決め金利
- 複利TONAは後決め金利
- TORFは前決め金利
TONAは後決め複利の形で使われることがほとんどだが、TORFは前決め金利である。
つまり
- 後決め複利TONAは計算期間の終了直前にならないと利払金額がわからない
- TORFは計算期間の開始直前に利払金額が決まっている
TONAは後決め金利であり、利払日の直前にならないと利払金額がわからない。
TORFは前決め金利であり、利払日よりかなり前の段階で利払金額は判明している。
3.翌日物 vs ターム物
TONAとTORFの大きな違いは、翌日物かターム物かの違いである。
- TONAは翌日物の金利
- TORFはターム物の金利
TORFは「東京ターム物リスク・フリー・レート」で英語名は
Tokyo Term Risk Free Rate
となっている。
ターム物は要するに「翌日物ではない」ということ、つまり「金利の期間が1営業日よりも長い」ということだ。TORFの場合は1M, 3M, 6Mのものがある。
これに対してTONAは翌日物の金利である。つまり金利の期間が1営業日、要するに「今日貸して明日返す契約の金利」である。
したがって基本的には、TORF6MやTORF3Mの方がTONAより期間が長いので一般的には金利が高くなる傾向がある。
4.デリバティブ市場向け vs キャッシュ市場向け
- TONAはデリバティブでの使用がメイン
- TORFはキャッシュ商品(債券やローンなどの現物)での使用がメイン
TONAは主に金利スワップなどのデリバティブ市場で使われているが、債券やローンなどのキャッシュ商品市場では、後決め金利が嫌気されるため、あまり使われないと予想されている。
一方で、TORFは主に債券やローンでの使用が想定されている。実際、債券やローンでは、TORFなどのターム物レートがフォールバックの第一順位になっている。
5.算出の基礎となる取引の違い
- TONAは無担保コール翌日物レートから算出
- TORFはTONAスワップレートから算出
TONAの算出元は無担保コール翌日物の約定レートである。
無担保コール翌日物は十分に流動性があることから、TONAの不正操作は困難と考えられ、指標としての頑健性が高い。
一方、TORFの算出元はTONAスワップの呈示レートである。
TONAスワップはまだ市場が成長し始めた段階なので、現状では流動性が十分とは言えず、指標としてのTORFの頑健性に不安がある。つまりごく一部の市場参加者がTONAスワップをトレードすることでTORFを不正操作できる可能性が残されていると思われる。
TONAスワップとTORFスワップの違い4選
TONAを参照するスワップと、TORFを参照するスワップの違いは以下の通り。
- CCPでの清算可能性
- 利払いサイクル
- 変動サイドが後決めか前決めか
- 流動性
1.CCPでの清算可能性の違い
- TONAスワップはCCPで清算が可能
- TORFスワップはCCPで清算は現状不可能
TONAスワップはJSCCとLCHで清算できる。
JSCCでは満期40年程度まで、LCHでは満期41年までとなっている。
2.利払いサイクルの違い
- TONAは1年ごとがメイン
- TORFは6カ月ごとがメインか?
TONAスワップの利払いサイクルは、以前は1年(つまり1年に1回、変動金利と固定金利を交換)だったが、JPY LIBORスワップは6カ月ごとなので、今後は6カ月ごとに交換するTONAスワップが多くなるかもしれない。
一方、TORFスワップの利払いサイクルは、まだマーケットコンベンションが定まっていないが、おそらく、
・TORF6Mを参照するスワップなら6カ月ごとに交換
・TORF3Mを参照するスワップなら3カ月ごとに交換
になると思われる。
3.変動サイドが後決め金利か、前決め金利か
- TONAスワップは変動サイドが後決め金利
- TORFスワップは変動サイドが前決め金利
TONAスワップは、計算期間の終了直前になるまで変動金利サイドの利払金額が決まらない。よって、利払金額が決まって数営業日後に決済しないといけないため、事務負荷が大きい。
TORFスワップは、計算期間の開始直前に変動金利が決まる。利払金額もそれと同時に定まるので、利払金額が決まってから決済日まで6カ月や3カ月など、まとまった期間が確保できるため、事務負荷が小さい。
4.流動性の違い
- TONAスワップは流動性がまだ少ないが最近急激に増えている
- TORFスワップは流動性が現状ほとんどない
TONAスワップは以前から取引として存在していたほか、2021年7月以降、急激に取引量が増えている。
一方で、TORFスワップはまだ取引がほとんど行われていない。また、TORFは主に債券やローンでの使用が想定されており、スワップなどのデリバティブではTONAが後継指標として指定されているので、今後もTORFスワップの流動性はあまり増えないことが想定される。
TORFの算出根拠がTONAスワップレート
TONAを参照するスワップが円のOISである。
円のOISでは、
・TONAを1年など一定期間、複利で運用した結果のレート
と
・固定金利
を1年ごとに交換する。
TONAがOvernight IndexなのでOvernight Index Swap、略してOISという。
そして交換する固定金利のことをOISレートと呼ぶ。
TORFはこのOISレートのうち、満期が短いOIS(短期OIS)のOISレートをもとに算出されている。満期が1年未満のOISを短期OISというが、短期OISは金利の交換が満期の1回のみである。例えば満期6Mの短期OISであれば、約定日のスポット日後(たいてい2営業日後)から起算して6か月後に1回だけ変動金利と固定金利を交換する。
短期OISレートは、その満期と同じ期間の翌日物金利を複利運用した変動金利と釣り合うように決まる。
TORF6Mであれば満期6Mの短期OISレートを実取引ベースで集めてきて、それをもとにTORF6Mレートが算出される。このため、TORF6Mであれば、TONAを6か月のあいだ複利運用した結果と釣り合うように決まる。つまりTORFの元となる材料ひとつひとつはTONAなのだが、TORFはそれを例えば6カ月の間累積した結果を、事前に市場が予想したレートである。
今日観測されるTORF6Mは、今日から6カ月間、TONAを複利運用すると年率でどれくらいの金利になりそうか、というのを市場が予想したレートである。したがってフォワードルッキングなレートと言われる。
一方、今日から6カ月後にレートが確定する、6カ月の後決め複利TONAは、今日から6カ月間、TONAを実際に観測し続け、複利運用した結果である。したがってバックワードルッキングなレートと言われる。
つまり、
- TORF6Mは、市場の予想レート
- 後決め複利TONA6Mは、TORF6Mに対応するレートを、実際に観測されたTONAの複利運用結果として求めたものであり、「TORF6Mの答え合わせ」ができるレートということになる
参考文献
スワップ取引のすべて(第5版) 実践デリバティブ: Excelでデータ分析 Interest Rate Swaps and Their Derivatives: A Practitioner’s Guide (Wiley Finance Book 510) (English Edition) Interest Rate Derivatives Explained: Volume 1: Products and Markets (Financial Engineering Explained) (English Edition)あわせて読みたい
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