金利のTONAレートとは?後決め複利の計算方法・正式名称・読み方【わかりやすく】

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参考文献

スワップ取引のすべて(第5版)

金利のTONAレートとは

実取引の約定金利である無担保コール翌日物金利を加重平均したものである。

コール市場とは、銀行間で短期の資金を無担保で貸し借りする市場である。
翌日物金利とは、期間が1営業日の金利のことで、今日借りて明日返す、という場合に適用される金利である。

TONAは円のRFR (Risk Free Rate) と指定されており、円LIBORが廃止された後の後継金利となっている。

今までは円金利スワップといえば円LIBORスワップだったが、
円LIBOR廃止後は、円金利スワップといえば円TONAスワップ、ということになる。

算出方法、公表時刻

TONAは、 短資会社3社の提供する無担保コール翌日物の実取引データをもとに、約定レートの出来高加重平均により日本銀行が算出している。

日本銀行によるTONAの公表ページはこちら

公表時間は次の通り。

  • 速報値当日の午後5時15分頃に日銀が公表
  • 確報値翌営業日の午前10時頃に日銀が公表

TONAの集計方法・公表方法の詳細は日銀の資料を参照。

TONAの正式名称

Tokyo OverNight Average rateの略。
TONARと略すこともある。
直訳すると東京翌日物平均金利。

TONAの読み方

トナーである。

書き方・表記法

トナーには2つの表記法があり、文献によって異なる表記をしていることがあるが、同じものを指している。

  • TONA
  • TONAR

Tokyo OverNight Average Rateなので、
Rateまで含めればTONAR、Rateを含まなければTONA、となる。

TONAと無担保コール翌日物の違い

実際のコール取引の金利は市場実勢で毎回変わり得るが、
TONAはAverageと付いていることからもわかるように、実取引の翌日物金利を加重平均した結果を日銀が公表している。
したがって、

  • 実際に約定した際の金利は取引ごとに異なる。これが無担保コール翌日物であり、言及する際はMUTANと書いてあることもある。MUTANは取引ごとに一日に何回も異なるレートが発生することになる。
  • 実取引の金利であるMUTANを日銀が加重平均して、一日一回公表しているのがTONAである。TONAは複数のOIS取引に対して同じレートが複利計算に用いられる

OIS、TONAスワップ、後決め複利とは

OISとは翌日物金利スワップ (Overnight Index Swap) のことである。
OISの円金利版がTONAスワップということになる。

円金利OIS=TONAスワップ

TONAスワップは変動金利としてTONAを参照するスワップである。
TONAは無担保コール翌日物金利から計算されている。

無担保コールコール翌日物金利は、日銀が公開市場操作を行う際に誘導目標とする短期金利としても知られる。したがってTONAスワップレートは、日銀の金融政策の影響を受けるといえる。

TONAスワップをはじめとするOISでは、変動金利サイドが支払う金利は後決め複利になっているのが特徴であり、多くの人がこの後決め複利の理解でつまづく。

TONAは翌日物の金利であり、毎営業日、異なるレートが公表される。しかしスワップのユーザーである金融機関や事業法人は、TONAを毎営業日受け払いするわけにはいかない。毎日利払というのは事務負荷が重すぎて現実的ではないからだ。

このため、OISの変動金利サイドでは、TONAを一定期間(1年や6カ月など)、複利運用した結果のレートを変動金利として定期的に支払う。
OISの固定金利サイドも、変動金利と同じサイクルで利払いする。

利払いサイクルが一年であれば、一年間の複利計算結果が、変動金利サイドの最終的な利払いに用いられる金利となる。

複利計算方法

複利の計算式は以下の通り。

$$
\left[ \prod_{i=1}^d \left\{ 1 + \mathrm{TONA}_{i-\Delta} \left(\frac{n_i}{365}\right) \right\} – 1 \right] \frac{365}{N}
$$

ここで、記号の意味は以下の通り。

  • \(\prod\)は掛け算の記号(\(\sum\)は足し算だがそれの掛け算バージョン)
  • \(d\)は付利期間に含まれる営業日数(TONAが公表される営業日の数)
  • \(\Delta\)は何営業日前のTONAを用いるか(\(\Delta = 5\)であれば5営業日前のTONAの値を複利計算に用いる)
  • \(n_i\)は次の営業日までの暦日数(通常は1だが、土日祝日をはさむ場合は1より大きな値になる)
  • \(N\)は付利期間の開始日から終了日までの暦日数

\(\prod_{i=1}^{d} \left\{ \right\}\) で掛け算しているのが複利計算の箇所である。
そこから1を差し引くことで、複利計算結果から金利部分を抜き出している。
最後の \(\frac{365}{N}\) は金利を年率に直しているだけである。
1つの付利期間を1営業日ごとに細かく分割した1分割の日数が\(n_i\)であり、これら小さく分割された日数の合計が\(N\)だから、大雑把に言うと、\(\sum_{i=1}^d n_i = N\)である。

TONA複利の関連指標:
TONA Averages, TONA Index

毎営業日公表されるTONAの確報値を、株式会社QUICKが複利計算した指標が2021年3月15日から公表されている。我々が複利計算しなくても、QUICK社が代わりに複利計算してくれる、というわけである。

  • TONA Averages:30Days, 90Days, 180Daysの3種類
  • TONA Index

TONA Averagesは、指標の基準日からさかのぼって30日前、90日前、180日前から基準日までの間、TONAを日次で複利計算したレートである。例えばTONA Averages 180Daysであれば、足元で計算したヒストリカル180日のTONA後決めレートである。

TONA Indexは、2017年6月14日(日銀が「無担保コールO/N物レート行動規範」制定した日)に100単位だった資産をTONAで複利計算した場合の基準日における資産評価額である。2017年6月14日から基準日までのTONAの複利計算結果がわかる。金利を計算したい期間について、終了日のTONA Indexを、開始日のTONA Indexで割り算すれば、その期間におけるTONAの複利計算結果が得られる。

日本銀行が推進するTONA First
(TONAファースト)とは

日銀(日本円金利指標に関する検討委員会)が推し進めているのがTONA First(TONAファースト)という運動である。

TONAファーストとは「日本円の金利スワップをやりたい、と言われたら金融機関はLIBORスワップレートではなくTONAスワップレートを顧客に呈示する」というものである。言い換えると「金利スワップのマーケットメイカー(流動性供給者)による気配値の呈示をLIBORベースからTONAベースに変更する」ということになる。

したがって、もし顧客が固定払い・LIBOR受けのLIBORスワップを取引したい場合は、次のようにTONAを間にはさんで2件のスワップを取引することになる。

  • 固定払い・TONA受けのTONAスワップ
  • TONA払い・LIBOR受けのTONA vs LIBORベーシススワップ

円LIBORの後継指標:
TONA, TORF, DTIBOR

TONAの後決め複利は円金利デリバティブにおいて、円LIBORの後継指標として正式に指定されている。したがって、金利スワップ、金利スワップション、金利キャップ・フロアなどは全て、原則として円LIBORの後継指標はTONAの後決め複利になる。

しかしローン、変動利付債、証券化商品などのキャッシュ商品(=デリバティブ商品以外)については、TONA以外の金利指標が後継金利として選択される可能性がある

円LIBORに代わる後継指標の選択肢は以下の通り。

  • 後決め複利TONA
  • TORF
  • DTIBOR

後決め複利TONAは、金利デリバティブの後継指標であるため、金利スワップでヘッジすることが想定される場合のローンや変動利付債に使われる可能性がある。

TORFはLIBORやTIBORと同様、前決め金利であることから、金融機関の既存のシステムや事務オペレーションとの親和性が高いので、TORF待望論が根強い。しかし満期6カ月や3カ月といった短期のTONAスワップの流動性が十分増えない限り、TONAスワップを取引することでTORFを不正操作できるかもしれない。このため、TORFはまだ金利指標としての頑健性に不安があると考えられている。

TIBORについては、ZTIBORの廃止が予定されているので、DTIBORを選ぶことになる。
しかしDTIBORもLIBORと同様、頑健性に不安があり、不正操作できるのでは?と(主に海外から)指摘され、存続が危ぶまれる可能性がある。
また、あくまで金利デリバティブの後継指標は後決め複利TONAであるため、DTIBORスワップの流動性はそれほど増えないと考えられる
DTIBOR6Mスワップを取引するためには、TONAファーストの状況下においては、金融機関は以下の3取引を組み合わせて、DTIBOR6Mスワップを合成で作ることになる。

  • TONAスワップ
  • ZTIBOR vs TONAベーシススワップ
  • DTIBOR vs ZTIBORベーシススワップ

DTIBOR3Mのスワップを取引しようとすると、金融機関は以下の4取引を組み合わせて、DTIBOR3Mスワップを合成で作ることになる。

  • TONAスワップ
  • ZTIBOR6M vs TONAベーシススワップ
  • ZTIBOR3M vs ZTIBOR6Mベーシススワップ
  • DTIBOR3M vs ZTIBOR3Mベーシススワップ

DTIBOR3M vs DTIBOR6Mベーシススワップよりも、テナーが同じDTIBORとZTIBORを交換するベーシススワップの方がメジャーである。

参考文献

スワップ取引のすべて(第5版)

実践デリバティブ: Excelでデータ分析

Interest Rate Swaps and Their Derivatives: A Practitioner’s Guide (Wiley Finance Book 510) (English Edition)

Interest Rate Derivatives Explained: Volume 1: Products and Markets (Financial Engineering Explained) (English Edition)

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