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パワーリバースデュアルカレンシー債(PRDC債)とは | Quant College
PRDC債の復習
PRDCのクーポンは以下の形をしている。
\(F \leq r_f \frac{X_t}{X_0} – r_d \leq C\)
・\(r_f , r_d\)はそれぞれ金利で、組成時に確定させる
・\(X_t\)は将来時点の為替レート
・\(X_0\)は行使レートで、組成時のスポット為替を基準に設定する
・\(C\)はキャップレートで、クーポンの上限
・\(F\)はフロアレートで、クーポンの下限
為替の上昇率によりクーポンにレバレッジがかかっており、為替が円安に行くほど高いクーポンがもらえる。また、クーポンに上限と下限が両方設定されていることが多い。
元本償還は通常の額面償還(パー償還)が多い。
しかし多くの場合、早期償還条項が付いている。これには以下の2種類がある。
・ノックアウト条項:為替がバリアレートより円安に行ったら早期償還
・コーラブル条項:発行体にとって都合の良いタイミングで早期償還
時価評価方法
ここでは、元本償還には仕組みが入っておらず、通常の額面償還であるとする。
すると、以下の3つの場合に分かれる。
- ノックアウトもコーラブルも付いていない場合
- ノックアウトが付いている場合:ノックアウトPRDC
- コーラブルが付いている場合:コーラブルPRDC
1.のケースはまれだが学習の参考になると思うので追加している。
ノックアウトもコーラブルも付いていない場合
この場合はバニラ商品の組み合わせとして解析的に評価できる。
オプション性があるのはクーポン部分だけである。
クーポンの時価評価についてまとめると以下の通り。
- キャップ(上限)とフロア(下限)がないPRDCクーポンを評価し、それに対してキャップとフロアのオプション価値を調整する
- クーポン式の、将来の為替 \(X_t\) の部分をフォワード為替レートで置き換えて評価する
- クーポンのフロアは、ある水準より円高になってもそれ以上クーポンが減らないわけなので、投資家は円のコールオプション(ドル円を参照する場合はドルプット円コールオプション)を買っている
- クーポンのキャップは、ある水準より円安になってもそれ以上クーポンが増えないわけなので、投資家は円のプットオプション(ドル円を参照する場合はドルコール円プットオプション)を売っている
投資家サイドから見ている点に注意。発行体サイドから見るとオプションの売り買いが逆になる。
以下の過去記事もご参照。
手順としては、
- 上記の方法でクーポンの期待値を一つ一つ評価し、各利払日に対応するDFをかけて現在価値を求め、合計すればクーポン部分の時価が出る
- 元本償還は額面償還なので、満期日に対応するDFを額面にかけて現在価値を求めるだけである
- 最後にクーポン部分の時価と元本償還部分の時価を合計すれば仕組債の時価が得られる
ノックアウトが付いている場合
各クーポンにバリアオプションが付いていることになる。バリアオプションはマーケットのスマイルと整合的に評価しようとすると、解析的に求められないケースが多い。数値計算法としてはPDEかモンテカルロかのどちらかになる。
為替に加えて金利も動かすかどうかによっても変わってくる。満期が長い場合は為替に加えて、外国金利と国内金利も確率的に動かすモデルを使うことが多い。その場合は3ファクターのハイブリッドモデルを使うことになる。3ファクターであればPDEで対応しているケースもあるが、多くの場合はモンテカルロになるだろう。
為替のバニラオプション評価に用いるスマイルモデルは、通常の通貨オプションと同様である。Heston, SABR, Vanna-Volgaあたりが多いが会社によって異なり、オリジナルモデルを使っていることも多い。
プライシングモデルとしては、
満期が短くて金利を動かさない場合は、
・Local Volatilityモデル
・Stochastic Local Volatilityモデル
のどちらかだろう。
この場合、数値計算法としてはPDEを使うことになる。
金利も動かす場合は3ファクターモデルを使う。比較的シンプルな選択肢としては以下のどちらかだろう。
・HW-HW-BSモデル:
金利にHull-Whiteモデル、スポット為替にBlack-Scholesモデル
・HW-HW-LocalVolモデル:
金利にHull-Whiteモデル、スポット為替にLocal Volatilityモデル
HW-HW-BSモデルを使うと為替のスマイルが織り込めない。スマイルからボラティリティを取得する際のストライクの選択を工夫することである程度改善されるかもしれないが、為替スマイルを考慮するにはHW-HW-LocalVolモデルを使うことになる。
コーラブルが付いている場合
コーラブルPRDCの場合はたいてい満期が長く、将来時点におけるPRDCスワップ全体の時価を求める必要があり、金利も動かすモデルを使うことになる。よってHW-HW-LocalVolモデルかHW-HW-BSモデルになる。
数値計算法としては最小二乗モンテカルロを用いる。
ドル円のPRDCの場合、コーラブル部分(PRDCスワップション)の大まかな時価評価の手順としては、
- ドル金利のHull-Whiteモデルをドルのスワップションにキャリブレーションする
- 円金利のHull-Whiteモデルをドルのスワップションにキャリブレーションする
- キャリブレーション済みの2通貨のHull-Whiteモデルをインプットにして、マーケットの通貨オプションと整合的になるように為替モデルをキャリブレーションする
- キャリブレーション済みモデルを用いて、金利と為替の将来シナリオを生成する
- 満期からバックワードに各コール時点における条件付き期待値、および権利行使境界を最小二乗モンテカルロ法で求めていく
コーラブルPRDCスワップの時価は、コールなしPRDCスワップと、上記で求めたPRDCスワップションの時価を合計すればよい。
コーラブルPRDC債の時価は、ざっくり求めるなら、債券の額面にコーラブルPRDCスワップの時価を足せばよい。組み込まれているデリバティブの時価がマイナスであれば、仕組債の時価が額面より下回ることになる。
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