コーラブルPRDCが持つ2つのオプション性

今回の話はコーラブル商品の多くに当てはまるもので、例えばコーラブルリバースフロータースワップなどもそうだが、ここでは説明のためにコーラブルPRDCスワップを取り上げる。

まずPRDCスワップとは、為替リンクのクーポン(PRDCクーポン)とLiborを交換するスワップであり、為替リンクのクーポンは例えば以下の形で表される。

(12%×ドル円レート÷108) - 10%

つまりドル円レートが円安に行くほどたくさんクーポンがもらえる。
しかしこれでは引き算になっているので、クーポンがマイナスになる可能性がある。それを防ぐために0%や0.01%などクーポンの下限が設定される。下限があるということはクーポンをもらう顧客にとって有利な条件なので、その分、クーポンの他の条件を顧客にとって悪い方向に動かす必要がある。それを避けるために、クーポンに上限を設定する。ドル円レートがどれだけ円安に行ってもクーポンが上限を超えないようにするわけである。この結果、PRDCクーポンには上限と下限の両方が設定されることが多い。

次にコーラブルPRDCスワップとは、金融機関がPRDCスワップを精算金なしに中途解約できるものである。これを評価するには、以下の2つに分解する。
・PRDCスワップ
・それとは受け払いが逆サイドのPRDCスワップを原資産とするPRDCスワップション
PRDCスワップションが権利行使されると、逆サイドのPRDCスワップが発生するので、元々のPRDCスワップ本体と相殺されて消えることになる。コーラブルPRDCスワップの評価は、上記の2つに分けてそれぞれを評価し、最後に2つの時価を合計する。これについては以下の記事をご参照。

以上の前提を踏まえて、コーラブルPRDCスワップが持つ2つのオプション性は以下の通り。

  1. ひとつひとつのクーポンのオプション性
  2. スワップ全体のオプション性

1つ目はクーポンのオプション性であり、PRDCクーポンには上下限が存在するため、通貨オプションが組み込まれていることがわかる。つまり
・為替レートが一定水準より円安になるとそれ以上クーポンが増えない
・為替レートが一定水準より円高になるとそれ以上クーポンが減らない
わけなので、これはつまり通貨オプションのコールとプットが1つずつ組み込まれていることになる。PRDCクーポンの評価方法は以下の記事をご参照。

つまりクーポン自体にオプション性が入っており、それを評価するためには、クーポンの上下限に対応する通貨オプションを評価しないといけない。

2つ目のオプション性はPRDCスワップ全体に対するオプションである。これは中途解約権に対応するもので、PRDCの場合はバミューダンPRDCスワップションと呼ばれる。スワップ全体に対するオプションというのは、受け払いが反対のスワップションが権利行使されることにより、スワップ全体が解約されることに対応している。解約できるタイミングはたいてい6Mごとなど、定期的に複数回、解約できるタイミングがあるが、このようなスワップションのことをバミューダンスワップションと呼ぶ。このスワップションの原資産はPRDCスワップであるため、名前としてはバミューダンPRDCスワップション、ということになる。

これは1つ目のオプション性とは原資産が大きく異なることに注意しよう。1つ目のオプション性はクーポンに関するものであり、原資産が為替レートであった。しかし2つ目のオプション性はスワップ全体に関するものであり、原資産はPRDCスワップである。これら原資産が全く異なる2つのオプション性を両方とも考慮しないといけないため、コーラブルPRDCスワップの評価はややこしくなる。コーラブルが付いていなければ、クーポンのオプション性のみなので、バニラな通貨オプションとして評価すればよく、例えばVanna-Volga法でも評価できる。しかしコーラブルが付いていると、2つ目の、スワップ全体のオプション性が出てくるが、これを評価するには金利と為替の両方を確率的に動かすハイブリッドモデルが必要になる。当然ながら、国内金利、外国金利、為替レート、の3つの間の相関を考慮に入れることになる。