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HJMモデルとは
金利の期間構造モデルのテキストで必ず出てくるのがHJMモデル(Heath–Jarrow–Mortonモデル)である。ざっくり言えば、(瞬間的な)フォワードレートをブラウン運動を用いて一般的な形でモデル化したものである。
一般的な形ということの意味は、
・ボラティリティは確率的に変動してもよい(確率ボラティリティ)
・ボラティリティの関数形は何でもよい
・フォワードレートは複数のブラウン運動に駆動されていてもよい(マルチファクター)
などである。
これだけ一般的な形なので、かなり多くのモデルが実はHJMモデルの特殊な場合として含まれる。
HJMモデルの主要な結果は、異なる満期の割引債価格の間で裁定取引ができないとすると、フォワードレートのドリフト(トレンド項)がボラティリティを用いて定まる、というものである。割引債価格の無裁定条件を、ドリフトが満たす条件で言い換えたことになる。したがって無裁定が成り立つという条件のもとでは、ボラティリティを定めれば自動的にドリフトも定まり、フォワードレートのダイナミクス全体も定まる。
HJMモデルの位置づけ
HJMは特定のモデルを指すというよりは、多くの具体的なモデルを含むフレームワークである、とよく言われる。実際のところその通りであり、HJMフレームワークと呼んだ方がいいだろう。というのも、HJMモデルはかなり一般的な条件のもとで提案されており、実務で使われるモデルの多くはHJMモデルの特殊な場合である。
実際に使われているモデルたちの「基礎」になっているという意味でたしかにHJMは重要である。しかしそれはどちらかというと学問的に重要ということであり、HJMモデル「だけ」を学んでも実務で直接役立つということはない。実務家の方であれば、「教養として知っておきましょう」ぐらいのスタンスで学ぶのがちょうどいいと思われる。
フォワードレートモデルの特徴
HJMモデルはフォワードレートをモデル化しておりフォワードレートモデルだが、ショートレートをモデル化したショートレートモデル(ハルホワイトモデルなど)も実務でよく使われる。これら2種類のモデルの発想の違いについては以下の記事で説明した。
ショートレートモデルとフォワードレートモデルの考え方の違い | Quant College
大きな違いは、割引債価格はショートレートを用いて期待値で表されるので、ショートレートモデルでは期待値計算を実行しないと割引債価格が求まらないが、フォワードレートモデルでは期待値計算を実行する必要がないという点だ。割引債価格はフォワードレートを用いて直接的に表され、期待値記号は登場しない。
ショートレートはそれ自体にイールドカーブ全体の情報が含まれているわけではなく、ショートレートをモデル化することとイールドカーブ全体をモデル化することには少々論理に飛躍がある。
しかしフォワードレートモデルは、あらゆる満期のフォワードレート「たち」を一斉にまとめてモデル化するので、これはつまりイールドカーブ全体を直接モデル化しているといえる。
イメージ的には、
- ショートレートは1つの観測時点に対して、1つの値しかない
- 満期ごとに異なるショートレートを並べた「ショートレートのカーブ」のようなものは存在しない
- そういう意味で、ショートレートにはイールドカーブの一番手前(超短期ゾーン)の情報しか含まれていない
- 一方で、フォワードレートは1つの観測時点に対して、満期ごとに複数の(無数の)値が存在する
- 満期ごとに異なるフォワードレートを並べた「フォワードレートのカーブ」が存在する
- フォワードレートカーブにはイールドカーブ全体(超短期ゾーンから超長期ゾーンまで)の情報が含まれている
- このため任意の満期の割引債価格を求めようとした場合、どの満期であっても割引債価格はフォワードレートから直接求まる
フォワードレートのカーブは、割引債価格のカーブから所定の変換式で自動的に求まるものなので、フォワードレートは割引債価格を言い換えたものにすぎない。
フォワードレートモデルは教科書的にはフォワードレートが従うダイナミクスから話が始まるが、割引債価格が従うダイナミクスから話を初めても同じことである。
無裁定条件は資産価格である割引債価格に対して適用される(無裁定条件を適用した結果、割引債価格のドリフトは無リスク利子率となる)ので、むしろそのほうが直接的であるともいえる。
実務ではどのように使うのか:HJMモデルの特殊な場合
実務で使われるのはHJMモデルの特殊な場合である。一般的な形で定義されたHJMモデルに対して、順番に簡単化の条件を課していく。
まずボラティリティは確率的に変動するのではなく確定的だと仮定する。するとランダム要因はフォワードレートのブラウン運動のみになるのでフォワードレートが正規分布に従う。これをGaussian HJMモデルという。
また、重要な仮定として、Separability Conditionという条件を課す。これは、フォワードレートのボラティリティ関数が
\(\sigma (t, T) = g(t)h(T)\)
と、観測時点\(t\)の関数と、満期\(T\)の関数に分かれるという条件である。これを課すことによりマルコフ性が得られて現実的な数値計算が可能となる。
さらにボラティリティ関数に具体的な関数形を仮定する。シンプルな関数形を仮定することで計算しやすくする。
そしてフォワードレートが駆動されるブラウン運動は1つであると仮定する(ワンファクターモデル)。
これらの条件を全て課した結果得られるのが、ワンファクターハルホワイトモデルなどの、ワンファクターショートレートモデルたちである。シンプルなワンファクターモデルが使われることが多い。
他にも、GaussianHJMモデルにSeparability Conditionを課しただけのCheyetteモデルが使われることもある。
参考文献
Interest Rate Swaps and Their Derivatives: A Practitioner’s Guide (Wiley Finance Book 510) (English Edition) Interest Rate Derivatives Explained: Volume 1: Products and Markets (Financial Engineering Explained) (English Edition) Interest Rate Derivatives Explained: Volume 2: Term Structure and Volatility Modelling (Financial Engineering Explained) (English Edition)あわせて読みたい
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