ショートレートモデルとフォワードレートモデルの考え方の違い

金利の期間構造モデルの教科書では、Hull-Whiteモデルなどのショートレートモデルと、HJMフレームワークなどのフォワードレートモデルが両方載っているが、これら2つの発想の違いを説明しているものは少ない。

フォワードレートモデルは、瞬間フォワードレートをモデリングの対象とする。瞬間フォワードレート\(f(t, T)\)は、時点\(t\)で観測される、満期\(T\)から\(T+\delta \)のフォワードレートにおいて、\(\delta\)を極限まで小さくしたものである。重要なのは、満期\(T\)ごとに異なる金利、ということである。\(T\)の数だけ異なるフォワードレートがあることになる。フォワードレートモデルは全ての満期\(T\)に関するフォワードレートをまとめてモデリングするので、イールドカーブ全体を直接描写しているといえる。さらに、瞬間フォワードレートと割引債価格は以下のように明示的な式で互いに行き来できる(変換できる)ので、フォワードレートモデルは、全ての満期\(T\)の割引債価格\(P(t, T)\)をモデリングしているといえる。
$$f(t, T) = – \frac{\partial}{\partial T}\log{P(t, T)} $$
別の形で書き換えると以下のように割引債価格が求まる。
$$ P(t, T) = e^{- \int_t^T f(t, s) ds } $$
HJMフレームワークは債券価格を直接モデリングしている、と考えた方が整理しやすいのはこのためである。一般の将来時点で観測される全ての満期の割引債価格をモデリングしているわけなので、全ての満期の割引債価格の現在時点における値は全て観測可能であり、モデリングの対象ではない。つまり現在時点における割引債価格は天から降ってくるもので、観測可能なんだからそれをわざわざ計算して求める必要はない、という発想である。

それに対してショートレートモデルは、ショートレートをモデリングの対象とするが、ショートレート\(r(t)\)は瞬間フォワードレート\(f(t, T)\)において満期\(T\)を現在時点\(t\)に限りなく近づけたものである。重要なのは、瞬間フォワードレートと違って、満期\(T\)の概念がなく、満期\(T\)が変わっても同じ値ということである。ショートレートに織り込まれている情報は、現在時点\(t\)から見て瞬時に満期を迎える超超超短期債の情報のみだから、イールドカーブ全体の情報は明示的には含まれておらず、別途計算して求める必要がある。すなわちショートレートから出発して、任意の満期\(T\)の割引債価格を出すには、ひと手間加える必要がある。具体的には、以下のようにショートレートの積分を含んだ式の期待値を計算しないといけない。
$$P(t, T) = \mathbb{E}_t ^\mathbb{Q} \left[ e ^{-\int_t^T r(s)ds } \right]$$
(もっとも、教科書に出てくるショートレートモデルは、この割引債価格の期待値計算が解析的にできて、ショートレートから割引債価格が解析的に求められるものが多いのだが。)
このように、ショートレートモデルでは、債券価格がショートレートのデリバティブであると考えて、債券の無裁定価格を期待値計算で積極的に求めに行く、という発想である。これは、現時点の債券価格はわざわざ計算して求める必要はなく、天から降ってくるもの、というフォワードレートモデルの発想とは真逆であるといえる。