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【仕組債の仕組みとカラクリ】バスケットEB債(複数銘柄参照型他社株転換社債)とは | Quant College
バスケット型EB債の復習
クーポンはデジタルまたは固定。
デジタルクーポンとは、
- 参照銘柄の株価全てが行使価格を上回っていたら高いクーポン
- 1銘柄でも株価が行使価格を下回っていたら低いクーポン
になるもの。
早期償還(ノックアウト)が付いている。
参照銘柄を利払いと同じ頻度(3か月ごとが多い)で観測し、全ての銘柄がノックアウト価格を上回っていたら早期償還される。額面の現金で返済される。
満期の元本償還にも仕組み(ノックイン)が入っている。
参照銘柄のうち1つでも株価がノックイン価格を下回るとノックインする。注意として、3か月ごと等の離散参照であるノックアウトとは異なり、ノックインのほうはザラ場も含めて毎営業日観測(連続参照)する契約が多い。
ひとたびノックインすると、満期の元本償還は参照銘柄のうちワーストパフォーマンスの銘柄の現物株が渡されて終了となる。
時価評価(プライシング)のポイント
数値計算法
数値計算法にはモンテカルロシミュレーションを用いることが多い。
シンプルなモデルを使うのであれば解析的に近似して評価することも可能だろうが、実務ではLocal Volatilityモデルなど、ある程度複雑なモデルを用いるためシミュレーションによる評価になることが一般的である。
特にバスケットEB債などのバスケット商品では、複数の株価に依存するためファクター(確率的に動く要因)が多くなり、PDEを使うのが困難となる。
さらにEB債などエクイティ系の商品では、たとえ1つの銘柄しか参照しない商品であったとしても、PDEではなくシミュレーションを使っているケースが多い。
それに対して為替系の商品では、参照する為替レートが1つであれば、経路依存性の強い複雑な商品であっても、できるだけPDEの数値解法で解き、シミュレーションは避ける傾向にある。
しかし複数の為替レートに依存してキャッシュフローが決まるチューザー系の商品や、ターゲットノックアウトが付いているTARN系の商品(TARFなど)については、モンテカルロシミュレーションを使うことになる。
モデル
株価のモデルにはLocal Volatilityモデルを用いることが多い。
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複雑な商品は将来からさらに将来への遷移確率が、インプットとなるマーケットデータと整合的になるよう評価に織り込む必要がある。これを(ある程度)可能とするモデルのうちシンプルなものがLocal Volatilityモデルである(さらに複雑なモデルとしてはStochastic Local Volatility (SLV) モデルやLocal Correlationモデルなどがある)。
確率ローカルボラティリティモデルとは | Quant College
確率ローカルボラティリティモデルのキャリブレーション | Quant College
確率ローカルボラティリティモデルのキャリブレーション(補足) | Quant College
Local Volatilityモデルにはインプットとして、マーケットのバニラオプションのスマイルを再現するようなスマイルモデルが必要となる。エクイティ(株価)の分野でよく用いられているスマイルモデルはSVIモデルである。SVIはパラメーターからモデルボラティリティを解析的に容易に求めることができ、エクイティのスマイル形状によくフィットするから一般的に用いられている(金利でいうところのSABRモデルと同じ役割をする)。
SVIによる株価スマイル補間の基礎 | Quant College
SVIもSABRと同様、プライシングに使う前にマーケットのボラティリティスマイルにフィットするようなパラメーターを決定しておかないといけない。このようにマーケットに合うようなパラメーターを試行錯誤的に決定することをキャリブレーションという。
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時価評価(プライシング)の手順
時価評価の手順をざっくり書くと以下の通り。
- 参照銘柄全てについてスポットの株価を取得する
- 将来キャッシュフローの割引に使う金利カーブを作成する
- 参照銘柄全てについて配当カーブやレポカーブを作成する
- 参照銘柄全てについてボラティリティスマイルを取得する
- 参照銘柄全てについてスマイルにSVIをキャリブレーションする
- 参照銘柄全てについて、キャリブレーション済みのSVIをインプットにしてLocal Volatilityサーフェイスを作成する
- 参照銘柄全ての組み合わせについて、相関係数をヒストリカルデータから推定する
- モンテカルロシミュレーションのエンジンに各銘柄のLocal Volatilityサーフェイスと相関係数をインプットして株価シナリオを多数作成する
- ペイオフの条件を踏まえて、シナリオごとに以下のそれぞれを判定する
- クーポン判定価格を上回ったか下回ったか
- ノックアウト価格(UpOutバリア)にヒットしたかどうか
- ノックイン価格(DownInバリア)にヒットしたかどうか
- シナリオごとに、ノックアウトして早期償還されたのか、ノックインしたのか、を判定し、それに応じてクーポンと元本償還の金額を求める
- 求めた金額を金利カーブで割り引いて、シナリオごとに時価を求める
- シナリオごとの時価の平均をとる
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