ざっくり説明
EB債はExchangeable Bondの略であり、参照株価が下がり過ぎると満期で元本が(現金ではなく)現物株で償還されてしまう仕組債である。
参照株価が下がり過ぎた場合、その状態を「ノックインした」と言うが、ひとたびノックインすると、満期において元本が現物株で償還されてしまう可能性がある(この辺の詳細は取引条件によって異なるが、以下で順番に説明する)。
株価が下がった後に株式で返ってくるので、投資家からすればたまったものではない。しかし満期で株式で償還されたとしても、そこで損失が確定するわけではない。現物株を持っている状態なので、後になって株価が回復すれば損失が発生しないからだ。
満期に現物株を投資家に渡す可能性があるため、参照する株価は日経平均などの株価指数ではなく、具体的な個別銘柄になる。
また、満期に償還される株式数は、発行時の払い込み元本金額を、あらかじめ定められた行使価格で割って求める。しかし株式は単元株より小さく分割できないため、単元株を下回る株数については、現金に換算して現金調整額として別途支払われる。
EB債には以下のようにいろんな呼び名があるが、どれも同じものを指している。
- 他社株転換社債
- 他社株転換可能債券
- 他社株転換条項付債券
他社株転換社債の「他社」の意味は、EB債それ自体を発行する会社(発行体)と、元本償還で渡される株式の銘柄(発行体)が異なる、ということである。発行体は自社の株式を渡すのではなく、他社の株式を投資家に渡す。
今回の記事では、参照する株価が1銘柄のEB債を念頭に説明する。
複数の株価を参照するバスケット型のEB債を頻繁に見かけるが、これは別の記事で書くことにする。
EB債の特徴
以下ではクーポン、満期の元本償還、早期償還のそれぞれについて、EB債の特徴を簡単に見ていく。
クーポンについて
EB債は投資家が満期の元本償還に対応するプットオプションを売っているので、そのオプションプレミアムの分だけクーポンが高く設定することができる。
クーポンの種類は大きく分けて2種類である。
- 固定クーポン
- デジタルクーポン
固定クーポン型はそのままであり、利率が高い値であらかじめ固定されており、株価がどう動いても変わらない。
デジタルクーポン型は、
- 株価がクーポン判定価格を上回っていれば高いクーポン
- 株価がクーポン判定価格を下回っていれば低いクーポン(非常に低く設定されることが多い)
となるもの。利払いのたびに株価を参照して、その時点における株価に依存してクーポンが決まる。クーポンが高いか低いかの2通りしかないことからデジタルと呼ばれる。
満期の元本償還について
EB債はたいてい、参照する株価が満期までの間に一度でもノックイン価格まで下がったかどうか(ノックインしたかどうか)、によって満期の元本償還が変わってくる。満期までノックインしなければ、額面の現金で償還される。
満期の元本償還についても、契約ごとにいくつかの種類に分かれる。
よくあるのは以下の2種類である。
- フォワード償還
- プット償還
フォワード償還の場合
フォワード償還の場合は、
- ノックインしていなければ額面の現金で償還
- ノックインしていた場合、満期時点の株価によらず問答無用で現物株で償還
となる。つまり、ノックインすると満期において株式フォワードの買い契約が発生する(ノックインフォワード)。フォワードの買いは、必ず買わないといけない義務のことである。
プット償還の場合
一方で、プット償還の場合は、
- ノックインしていなければ額面の現金で償還
- ノックインしていた場合、満期時点の株価が、
- 行使価格よりも高ければ、額面の現金で償還
- 行使価格よりも低ければ、現物株で償還
となる。つまり、ノックインしたとしても、満期までに株価が行使価格を上回るまで回復していれば、額面通りの現金が返ってくる。しかし行使価格はノックイン価格に比べてかなり高く設定されることが多いため、株価がそこまで回復している望みは薄いと思っておいた方がいいだろう。
早期償還について
EB債も、日経平均リンク債などの株価リンク債と同様に、早期償還条項が付いている場合が多い。
これは、満期までの間に参照する株価が上がり過ぎて、ノックアウト価格に到達してしまった場合、そこで額面の元本が返ってきてしまうものである。それ以降はクーポンはもらえず、そこでいったん取引終了となる。
早期償還条項を付ける理由としては、こうすることで投資家は不利になる、すなわちオプションを発行体に売っていることになるので、そのオプションプレミアムの分だけクーポンなどの条件を投資家にとって魅力的に見せられるからである。
株価リンク債(株価連動債)とEB債の違い
日経平均株価リンク債(日経平均リンク債)など、いわゆる株価連動債、という仕組債もあり、契約としてはEB債に似ている部分も多い。
違う点としては以下の通り。
- 株価連動債はノックイン後の元本償還も現金で行われる(現金決済)
- EB債はノックイン後の元本償還が現物株で行われる(現物決済)
その他の違いとしては、
- 株価連動債は日経平均やS&Pなどの株価指数を参照することが多い
- EB債は現物株を渡せないといけないので個別銘柄を参照する
という点などがある。
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