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アメリカンオプションとは
権利行使期間中はいつでも権利行使できるオプションのことを、アメリカンオプションという。
オプションの分類には以下3つの軸がある。
- 原資産の種類による分類
- 権利行使の種類による分類
- 権利行使で得られるキャッシュフロー(ペイオフ)による分類
このうち、2.による分類は次の3つ。
- ヨーロピアンオプション:
満期でのみ権利行使できるもの - バミューダンオプション:
満期までの間、定期的に(6カ月ごとに1日など)権利行使可能日が設定されているもの - アメリカンオプション:
権利行使可能期間中はどの営業日でも権利行使できるもの
いずれも権利行使は1回しかできない。
バミューダンやアメリカンでは、権利行使する候補日が複数あるというだけで、権利行使それ自体を複数回できるわけではない。
アメリカンオプションというのはただ単に「2.権利行使の種類による分類」の1つであり、特定のキャッシュフロー(ペイオフ)を指定しているわけではない。したがってアメリカンオプションと言っても様々な種類のものがある。本記事では簡単のためにペイオフは最も基本的・一般的なバニラタイプ(バニラコールまたはバニラプット)を念頭に書いていく(したがって本記事ではアメリカンオプションとはつまりアメリカンバニラオプションのことである)。
「1.原資産の種類による分類」から言えば、アメリカンオプションは株式(エクイティ)オプションに多い。
通貨オプションはまれにあるという程度で、為替系はヨーロピアンタイプが多く、一方でバリアの付いたヨーロピアンオプション(バニラオプション)も一般的に取引されている。
金利オプションでアメリカンオプションは無いが、その代わりとしてバミューダンオプションが一般的である。
ヨーロピアンオプションとの価格差
ヨーロピアンオプションとアメリカンオプションの違いは、権利行使の候補日が1つしかないか、複数あるかである。
権利行使の候補日は、バミューダンオプションの場合は、6カ月ごとに1日や、1年ごとに1日など、定期的に(飛び飛びに)設定されている。
これに対して、アメリカンオプションの場合は、権利行使できる期間がいつからいつまで、と具体的に決まっていて、その期間中であればどの営業日でも権利行使できる。
オプションの保有者から見た場合、権利行使タイミングの選択肢が多い方が有利である。自分にとって都合の良いタイミングを選べるからだ。したがって、
ヨーロピアン<バミューダン<アメリカン
の順に権利行使日の選択肢が多いので、(他の条件が同じなら)一般的には価格も高くなる。例外として、配当のないアメリカンコールオプションは、満期前に権利行使する合理性がないため、ヨーロピアンの場合と価格が同じになる。
よって、アメリカンオプションとヨーロピアンオプションの価格差は、権利行使タイミングの選択肢から来ている。
価格計算はモンテカルロ法?
キャッシュフローがシンプルなアメリカンオプションに対して、実務上、モンテカルロ法を使うことはあまりない。
アメリカンオプションを価格を計算するうえで、使える数値計算法には次のようなものがある。
- 解析近似解
- ツリーによる数値解
- PDEによる数値解
- 最小二乗モンテカルロ法による数値解
実務ではPDEによる数値解が最も一般的である。
レガシーな環境では二項ツリーによる数値解が使われていることもあるかもしれない。
アメリカンオプションには、バニラオプションに対するブラックショールズ式のような、厳密な解析解はない。したがって数値解法に頼るしかない。
解析近似解は、数式で解析的に価格が得られるものの、厳密解ではないので誤差を含んでいる。高速に計算できるというメリットはあるものの、実務で解析近似解を使うことはほとんどない。数値解にも誤差はあるのだが、誤差をある程度まではコントロール可能ということで、数値解が選ばれることが多い。
ツリーにもいくつかの種類があるが、二項ツリーが使われることが多い。二項ツリーによる数値解は基本的であり、教科書でよく取り上げられているが、数値解が振動しやすく誤差が大きくなりがちである。また、時間方向のグリッドを決めると原資産価格方向のグリッドも強制的に決まってしまい、柔軟にグリッドポイントを置くことができない。実務ではあまり使われないが、教科書によく載っているからということで、一部のレガシーな環境ではいまだに使われていると思われる。
PDEによる数値解はアメリカンオプション以外にも、早期行使権・早期解約権が付いている商品などに幅広く用いられている。満期からバックワードに早期行使するかどうかを判定しながら評価することができ、アメリカンオプションとの親和性が高い。
アメリカンタイプの商品にモンテカルロシミュレーションを用いる方法にはいくつかの選択肢があり、それらを総称して「アメリカンモンテカルロ法」と呼ばれている。しかし実務で使われているのは最小二乗モンテカルロ法だけと言っていいだろう。この方法はアメリカンタイプやバミューダンタイプの商品のうち、権利行使時のキャッシュフロー(ペイオフ)が複雑な商品の評価に広く使われている。本記事で取り上げているアメリカンオプションはペイオフがバニラコールまたはバニラプットのものなので、最小二乗モンテカルロ法を使うには商品性がシンプル過ぎる。アメリカンバニラオプションも含め、シンプルな商品に対して、計算速度の観点から非効率な最小二乗モンテカルロ法を使うことは基本的にないと思っていいだろう。
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