ストックオプションのプライシング(時価評価、価格計算)方法は?

はじめに

「ストックオプション」というときは普通、日経平均やその構成銘柄のように流動性のある株式ではなく、ベンチャー企業などの個別株を参照するオプションを指す。また、従業員や役員への報酬として発行されることが多い。

このストックオプションを時価評価するにはどうすればよいか。
一般的には、原資産である株式が上場銘柄であれば、原資産に十分流動性があると考えて、通常のエクイティデリバティブと同様の方法で評価することになる。

ただしストックオプションに特有の取引条件として、参照企業の営業利益などが一定水準を上回って初めて権利行使が可能になる、というものが多い。営業利益ではなく売上や経常利益などを参照したり、3期連続で目標を達成しないと権利行使できない、など様々なパターンがある。これを業績条件という。
業績条件を付けることで、従業員が会社の業績アップを目指して働くよう動機付けしている。

本記事では一般論として、ストックオプションの評価方法としてよく見聞きするものを紹介していく。
業績条件付きのストックオプションをどう評価するのか、についても最後に確認する。

プライシングモデル

ストックオプションのプライシングモデルとして使われているのは、Black-Scholesモデルのみ、といっても過言ではないくらいである。シンプルだから、というのもあるのだろうが、個別株のスマイルを観測するのが(特に証券会社以外、例えば評価会社にとっては)容易ではないからだろう。

もっとも、エクイティデリバティブビジネスを営んでいる証券会社はMarkitのTOTEMサービスなどを利用して、流動性のある個別株についてはボラティリティスマイルを観測し、SVIやSABRなどのスマイルモデルを使ってオートコーラブル商品を評価する、ということを行っている。

しかしながらストックオプションを発行するような企業の株式は仮に上場していても流動性はあまりないため、有料のサービスを利用してもボラティリティスマイルを観測するのは困難だろう。

Black-Scholesモデルを使うのでボラティリティはATMのみだが、ATMボラティリティですらインプライドの情報を取得するのが困難である。したがってヒストリカルボラティリティで評価されることが多い。ある程度まとまった期間の株価を集めてきて、それを一定の頻度でサンプリングし、その対数変化率の標準偏差を求める、といった具合である。

数値計算法

世の中にはプライシングモデルと数値計算法がごちゃごちゃになっている人が多い。

Black-Scholesモデルと二項モデルが別のモデルであるかのように書く人もいるのだが、おそらく彼らのいう二項モデルは「Black-Scholesモデルをもとにアメリカンオプションを評価するために数値計算法として二項ツリーを選択した」ということである。そして彼らのいうBlack-Scholesモデルは「Black-Scholesモデルをもとにヨーロピアンオプションを評価するために数値計算法として解析解を選択した」ということである。

ということで、プライシングモデルと数値計算法を区別して考えていない段階でこちらとしては「あ~なるほど。そういう感じの人が書いているのね。」という印象を持ってしまう。

解析解・解析近似解

話を元に戻す。ストックオプションは満期までいつでも権利行使できる、いわゆるアメリカンタイプが多い。しかしこのアメリカン性を無視してヨーロピアンタイプとみなして評価することもあるようだ。その場合は解析解が使える。すなわち、有名なBlack-Scholes式である。

一方で、アメリカンオプションには解析近似解がいくつも考案されているので、それを使うこともできるだろう。

いずれにせよ、解析解や解析近似解が適用できるケースはかなり少ない。実際のストックオプションでは、株価が一定期間バリアを下回って推移すると行使価格が変化したりノックアウトしたりするものなど、複雑な条件が付与されている場合が多い。そのような場合はモンテカルロシミュレーションを用いることになる。

二項ツリー

これも見かける。アメリカン性、すなわち満期までいつでも権利行使できることをできる限り正確に考慮したい、という場合は二項ツリーがよく使われる。満期からバックワードに計算していくため、アメリカンオプションと相性が良い。

モンテカルロシミュレーション

バリア条項など複雑な条件が付与されている場合、モンテカルロ法に頼ることになる。ノックアウトやノックイン、株価の動き方によって行使価格が変化するものなど、様々なバリエーションがある。モンテカルロ法であれば、複雑な条件も比較的容易に評価に織り込むことができる。

モンテカルロ法はアメリカンオプションのように、いつでも権利行使可能、という場合と相性が悪いため、アメリカン性を無視して満期のみで権利行使と仮定してしまっていることも多い。

やろうと思えば最小二乗モンテカルロ法など、いわゆるアメリカンモンテカルロ法を使えば技術的には可能だが、評価会社などではあまり使われていないようだ。

業績条件が付いている場合

業績条件とは、つまり営業利益などが目標水準を超えたら権利行使可能、というようなものであり、権利行使を制限する条項のひとつである。

この場合、権利行使して正のペイオフが生じるのは、
・業績条件を達成して、
かつ、
・株価が行使価格を上回る
という場合である。

営業利益と株価の相関を考慮する場合

きちんとやるなら、営業利益と株価の相関を考慮して、2ファクターモデルで評価しないといけない。これをきちんと考慮している会社もある。その場合、
・営業利益や経常利益はマイナスになりうるため、それらは正規分布に従うとする(Normalモデル)
・株価はマイナスに行かないので対数正規分布に従うとする(Black-Scholesモデル)
そしてモンテカルロ法によって営業利益と株価のパスを同時に生成して評価する。相関はヒストリカルデータからざっくり推定する。

営業利益と株価の相関を考慮しない場合

営業利益と株価が独立と仮定しまう方法である。これは本来的には推奨されないはずだが、実務では実際に採用されている場合もある。

独立と仮定してしまうと、
・営業利益の業績条件
・株価がインザマネーになるという条件
というように期待値を2つにばらして別々に計算できてしまう。

営業利益の業績条件の部分は、正規分布に従う確率変数が一定水準を超える確率なので、営業利益の平均と分散をインプットすれば解析的に出せる。

株価の部分は、業績条件がないとして、通常のオプション評価をすればよい。
求まったオプション価値に対して、業績条件を達成する確率を外から乗じることで、業績条件を考慮したオプション価値を得る。

これはかなりざっくり計算だと思うが、実務で実際に使われている方法のようだ。

あわせて読みたい