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はじめに
トータル・リターン・スワップ(Total Return Swap; TRS)には大きく分けて2種類ある。
- 原資産が株式の場合:エクイティデリバティブの一種
- 原資産が債券の場合:クレジットデリバティブの一種
為替を参照するスワップの中にもトータルリターンスワップと呼ばれるものがあるが、メジャーなものは上記のようにエクイティとクレジットの商品だ。
株式の場合は、トータルリターンスワップはエクイティスワップと呼ばれる商品の一種である。
エクイティスワップとは | Quant College
株式トータル・リターン・スワップの例
- 想定元本:100万ドル
- 以下の株式リターンを四半期ごとに受け取る:
S&P500株価指数の四半期ごとの変化率×想定元本×90/360 - 以下の変動金利を四半期ごとに支払う:
USD Libor3M + 0.20%
トータルリターンスワップでは、株式のリターン全てを受け払いする。つまり、株価の変化率に加えて、配当の受け取りがあれば、それに応じて追加で現金を受け払いする。配当に関する受け払いを行わず、株価リターンのみを受け払いするエクイティスワップの場合は、プライスリターンスワップという。
配当なしの場合、直近の四半期で株価の変化率がマイナスであれば(株価が下がっていれば)リターンはマイナスなので、株式リターンの受け取りの契約であっても、逆に支払うことになる。
株式リターンと交換する相手のクーポンは、
- 上の例のような変動金利のケース
- 固定金利のケース
の両方があり得る。
重要なこととして、株式リターンの受け手は、実際にその株式を保有する必要がない。
外国からの投資が規制されている国の株式について、その現物株を保有できなくても、株式リターンを受け取るトータルリターンスワップに入ることで、株式を保有しているのと同じリターンが得られる。また、株を売ってしまうと議決権が行使できなくなるが、株価下落を予想していても議決権を手放したくない場合には、株式リターンを支払うトータルリターンスワップに入ることで、株価下落からのリターンを得ることができる。
債券・クレジットのトータル・リターン・スワップの例
債券・クレジットの場合のTRSは、ASW(アセットスワップ)、CDS(クレジットデフォルトスワップ)、CLN(クレジットリンク債)と似ているが異なる点もある。
L社(プロテクション(=保証)の買い手)とS社(プロテクション(=保証)の売り手)が、原資産(Underlying)であるU社の社債に対するトータルリターンスワップを結んだとする。
- L社(プロテクションの買い手)はS社に対して、U社債のスケジュールに合わせて以下を支払う
- U社債のクーポン
- 前回利払日から見たU社債の価格上昇額(評価益)
- (U社債がデフォルトしなかった場合)満期日に元本償還
- (U社債がデフォルトした場合)債券の回収額(元本からデフォルト損失の分だけ目減り)
- S社(プロテクションの売り手)はL社に対して、U社債のスケジュールに合わせて以下を支払う
- Libor+スプレッド
- 前回利払日から見たU社債の価格下落額(評価損)
- (U社債がデフォルトしなかった場合)満期日に元本償還
- (U社債がデフォルトした場合)元本償還(元本に目減りなし)
プロテクションの買い手から見ると
L社(プロテクションの買い手)から見れば、社債のデフォルト保証を買っていることになる。
- Libor+スプレッドがもらえる
- U社債の価格が上昇すれば、その上がった分を支払う(社債の売りと同じ)
- U社債の価格が下落すれば、その下がった分がもらえる(社債の売りと同じ)
- U社債がデフォルトしようがしまいが関係なく、必ず満期に元本返済を受けられる(社債のデフォルト保証(=プロテクション)の買い)
プロテクションの売り手から見ると
S社(プロテクションの売り手)から見れば、Libor+スプレッドで調達した元本を、U社債に投資しているのとほぼ同じである。
- U社債のクーポンがもらえる
- U社債の価格が上昇すれば、その上がった分がもらえる(社債の買いと同じ)
- U社債の価格が下落すれば、その下がった分を支払う(社債の買いと同じ)
- U社債がデフォルトしなければ、満期に元本返済を受ける
- U社債がデフォルトしたら、デフォルト損失を差し引いた回収額しか返ってこない。つまり、デフォルト損失を肩代わりしてL社(プロテクションの買い手)に支払っている(社債のデフォルト保証(=プロテクション)の売り)
唯一異なる点は、利払のたびに社債が時価評価されて勝ち負けが決済される点である。
U社債がデフォルトした場合であっても、元本をそのままL社に支払わないといけない、という点で、L社(プロテクションの買い手)に対して社債のデフォルト保証を売っているとみなせる。
債券・クレジットのトータルリターンスワップ(TRS)とアセットスワップの違い
アセットスワップは債券クーポンとLibor+スプレッドを交換するスワップ、という点でトータルリターンスワップと似ているが、違うのは以下の点。
- トータルリターンスワップでは、利払いのたびに債券の価格変化分(勝ち負け)を受け払いして決済する
- アセットスワップでは、利払いのたびに債券の価格変化分を決済しない
トータルリターンスワップでは、定期的に勝ち負けを決済するという点において、先物取引に近い部分がある。
アセットスワップとリパッケージ債の関係 | Quant College
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債券・クレジットのトータルリターンスワップ(TRS)とクレジットデフォルトスワップ(CDS)の違い
CDSもプロテクションの売り手が買い手に対して、債券のデフォルト保証を行っており、トータルリターンスワップと似ているが、違うのは以下の点。
- トータルリターンスワップでは、利払いのたびに債券の価格変化分(勝ち負け)を受け払いして決済する
- CDSでは、債券がデフォルトした際の損失の穴埋めしか行われず、デフォルトしない限り債券の価格変化に対応するものは補填されない
CDSではいわゆるJump To Defaultリスク、すなわち債券が実際にデフォルトしてしまうまで、保証がなされない。トータルリターンスワップでは、デフォルトが起きようが起きまいが、クレジットスプレッドが変動することによる債券の価格変化についても、キャッシュフローとして発生する。
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参考文献
Equity Derivatives Explained (Financial Engineering Explained) (English Edition) The Front Office Manual: The Definitive Guide to Trading, Structuring and Sales (Global Financial Markets)あわせて読みたい
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