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デュアルカレンシー債の復習
- 投資家は円貨を払い込み、
- クーポンも円貨で受け取るが、
- 満期の元本償還は
- 外貨で受け取る、あるいは、
- 満期で為替がトリガーレートより
- 円高になると外貨で受け取り、
- 円安だと円貨で受け取る
元本償還については大きく分けて2種類あるが、
・常に外貨で受け取るものはフォワード償還ともいう。
・円高に言った場合に限り外貨で受け取るのはプット償還ともいう。
常に外貨で受け取る場合は、投資家は為替フォワードの買いポジションになっている。つまり払い込み当初の為替が行使レートになっており、その行使レートよりも外貨が安くなると損失が出るが、反対に外貨が高くなると利益が出る。なぜなら払い込んだ円貨が常に外貨で返ってくるので、円高・外貨安になっていれば外貨を円に直すと為替差損が出るからだ。
しかし実際の商品では通常、フォワード償還ではなくプット償還になっていることが多いだろう。なぜならフォワード償還よりもプット償還の方が表面上のクーポンを高く設定できることが多いからだ。フォワード償還だと外貨が高くなると投資家に利益が出る。投資家にとって不利な条項を元本償還に入れることによって表面上のクーポンを高く設定するケースが多い。
プット償還の場合の時価評価
以下では参照する為替がドル円で、早期償還条項(コーラブル条項やノックアウト条項)が付いていないとする。特にコーラブル条項が付いていなければ、バニラ商品の組み合わせで評価できる。
プット償還の場合は、債券+プットオプションの売り、で評価できる。
手順としては以下の通り。
- 円のディスカウントカーブをスワップレートなどから作成する
- 円のディスカウントカーブで割り引くことにより、クーポンと元本償還を円で受け取るバニラな債券の時価を求める
- ドルプット(円コール)オプションを評価する
- ドル円のスポットレートを取得する
- マーケットの為替フォワードや通貨ベーシスと整合的になるように、円のディスカウントカーブとドルのディスカウントカーブを作成する
- ドル円のマーケットのボラティリティスマイルを取得する
- Hestonなどのスマイル補間モデルをマーケットのスマイルにキャリブレーションする
- 得られたパラメーターから元本償還の行使レートに対応するモデルボラティリティを求める
- 円のDF、為替フォワード、モデルボラティリティをBlack式に代入してオプション価値を求める
- バニラな債券の時価とプットオプションの時価をネッティングする
ディスカウントカーブは市場実勢の円金利から求まるので、割引金利はかなり低いレートとなる(現状だとかなりの年限までマイナス)。しかしながら、仕組債のクーポン水準はそれと比べて高く設定されている。したがって、満期のプットオプションの売りがなければ、時価としては額面よりも大きくなる(オーバーパー)だろう。なぜならクーポンレートよりも割引金利の方がはるかに小さいからだ。しかしプットオプションの売りが入っているので、マイナスのオプション価値が出てくる。これをオーバーパーになっている債券時価と足し合わせる。
イメージとしては、
- 債券時価が額面100に対して105と出てきて、
- プットオプションの売りの時価が額面100に対してマイナス7と出てきて、
- 仕組債の時価はこれらをネッティングして、
105 – 7 = 98
となる。プットオプションの売りの分だけクーポンが高く設定されている、というのはこういうことである。
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