【仕組債の仕組みとカラクリ】ノックインデュアルカレンシー債の時価評価方法

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ノックインデュアルカレンシー債とは | Quant College

ノックインデュアルカレンシー債の復習

デュアルカレンシー債にノックイン条項が付いたものである。ノックインしない限りは元本償還は円貨でそのまま戻ってくるので元本が毀損しないが、ひとたびノックインすると元本償還が外貨になる可能性があるため、もし為替が円高に振れたまま満期を迎えてしまうと、安くなっている外貨で戻ってくるので元本が毀損する。

  • 投資家は円貨を払い込み、
  • クーポンも円貨で受け取るが、
  • 満期の元本償還は、ノックインしてかつ満期に権利行使されると、外貨で返済されてしまう
    • 参照開始日から満期(厳密には参照終了日)に至るまでの間、為替レートをモニタリングし続け(3か月に一度など定期的にモニタリングする場合もある)、一度でも為替がバリアレートより円高になるとノックインする
    • ノックインした場合、元本償還のタイプによって外貨で元本償還されてしまう可能性がある。外貨の元本金額は、円貨の元本金額を取引開始当初のスポット為替レート等で割ったものである
      • フォワード償還の場合は、有無を言わさず外貨で元本が返済される
      • プット償還の場合は、満期で為替が行使レートより円高になると外貨で受け取り、円安だと円貨で受け取る

プット償還の場合の時価評価

参照する為替がドル円で、早期償還条項(コーラブル条項やノックアウト条項)が付いていないとする。特にコーラブル条項が付いていなければ、バニラ商品の組み合わせで評価できる。

プット償還の場合は、債券の買い+ノックインプットオプションの売り、で評価できる。
手順としては以下の通り。

  1. 円のディスカウントカーブをスワップレートなどから作成する
  2. 円のディスカウントカーブで割り引くことにより、クーポンと元本償還を円で受け取るバニラな債券の時価を求める
  3. ノックインドルプット(円コール)オプションを評価する
    1. ドル円のスポットレートを取得する
    2. マーケットの為替フォワードや通貨ベーシスと整合的になるように、円のディスカウントカーブとドルのディスカウントカーブを作成する
    3. ドル円のマーケットのボラティリティスマイルを取得する
    4. Hestonなどのスマイル補間モデルをマーケットのスマイルにキャリブレーションする
    5. プライシングモデルとしてLocal Volatilityモデルを使う場合、スマイル補間モデルをインプットとして与え、Local Volatilityサーフェイスを作成する(バリアオプションの評価にはLocal Volatilityモデルをさらに進化させたStochastic Local Volatilityモデルを使うことも多い)
    6. PDEなどの数値解法により、Local Volatilityモデルのもとでバリアオプション(ノックインプットオプション)を評価する
  4. バニラな債券の時価とプットオプションの時価をネッティングする

ノックインバリア観測の頻度

ここで注意として、為替のノックイン判定が3か月に一度など、定期的に行われる場合は、数値計算における時間軸のグリッドがバリア観測時点を含むように作成する必要がある。

定期的にしかバリア観測しないケースを離散バリア、常にバリア観測するケースを連続バリアと呼ぶことがあるが、Continuity Correctionという乗数をバリア水準にかけることによって、離散バリアを連続バリアに変換して評価することも可能である。

プライシングモデルとしてBlack-Scholesなど、必ずしも精緻ではないがシンプルなモデルを使う場合は、連続バリアに変換することでバリアオプションの解析解を使うことも可能になるだろう(ただしデリバティブ市場においてバリアオプションをBlack-Scholesで評価するのは一般的ではない)。

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最終的な時価の出方

クーポンレートよりも割引金利の方がはるかに小さい場合、バニラな債券の時価は額面より大きく出てくる。しかしノックインプットオプションの売りが入っているので、マイナスのオプション価値が出てくる。これをオーバーパーになっている債券時価と足し合わせる。

イメージとしては、

  • 債券時価が額面100に対して103と出てきて、
  • プットオプションの売りの時価が額面100に対してマイナス5と出てくると、
  • 仕組債の時価は、103 – 5 = 98

となる。ノックインプットオプションの売りの分だけクーポンが高く設定されている、というのはこういうことである。

ノックインプットの時価は、バリアなしのプットからノックアウトプットを引き算したものである。ノックインしないとオプションが発生しないので、時価はバリアなしのプットよりも小さくなる。そうするとクーポンに上乗せできるプレミアムが小さくなってしまう。それを補うためには行使レートを高く設定することにより、ノックインした場合のペイオフを大きく(投資家にとって不利に)することで、クーポンに上乗せするプレミアムの原資を確保することも考えられる。

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