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社債のプライシング:市場時価と理論時価
債券の時価には大きく2種類がある。
- 市場時価:市場で観測できる時価
- 理論時価:DCF法で理論的に求めた時価
流動性のある債券であれば、時価を市場で観測できるため、市場時価をとってきてそれを時価評価とすればいいだろう。市場時価が取れるなら、それが時価評価として最も信頼できるということになる。
一方で流動性のない債券であれば、時価を市場で観測できないか、観測できる場合でも情報ベンダーの有料サービスでないと取得できない、ということがあり得る。市場時価を取得できない場合は、仕方がないからということで、理論時価を求めてそれを時価評価とするしかない。
理論時価計算に必要な要素
社債は、(多くの場合)固定クーポンを受け取り、満期に元本償還を受け取る。しかし国債よりもデフォルト確率は高いため、クレジットを無視して評価することはできない。
評価に必要なものは、
- 割引率のベースとなるイールドカーブ
- イールドカーブに上乗せするクレジットスプレッド
- (もし変動クーポンの社債なら:将来金利算定に用いるイールドカーブ)
である。
イールドカーブとクレジットスプレッドはセットで考えないといけない。
ベースとなるイールドカーブが変われば、それに上乗せするクレジットスプレッドの水準も変わってくる。
割引率に用いるイールドカーブの選択肢
キャッシュフローはクーポンも元本償還も固定なのでシンプルだが、どのイールドカーブとクレジットスプレッドで割り引くか、が問題となる。
クレジットスプレッドは、あくまでベースとなる金利に上乗せするものなので、ベースとなる金利が変われば、適切なクレジットスプレッドも変わってくる。
ベースとなるイールドカーブの選択としてはだいたい以下のどれかだろう。
- 国債カーブ
- 格付け別の社債カーブ
- LIBORカーブ
- OISカーブ
社債も債券の一種なわけなので、国債カーブが選択肢になる。
発行体のクレジットスプレッドを例えば、JGBイールド+何ベーシス、という形で観測できるなら、ベースのイールドカーブには国債カーブを採用するのが自然だろう。
格付け別の社債カーブは、クレジットスプレッド込みのイールドカーブとして使える可能性があるが、市場価格を観測できる社債はたいてい似たような格付けに偏っているので、市場価格を観測できるサンプル数が少ない格付けについては、格付け別の社債カーブの信頼性が低い。
もしクレジットスプレッドが、LIBORイールド+何ベーシス、という形で観測できるなら、LIBORカーブを用いるのが自然だろう。
しかしLIBORカーブは2021年末のLIBOR公表停止により使用できなくなるため、その代わりとしてOISカーブを使うケースが多いと思われる。
LIBORカーブには銀行クレジットが上乗せされているが、OISカーブにはクレジット要素はほとんど上乗せされていない。
このようにLIBORカーブとOISカーブは性質が異なる部分もあるが、LIBORカーブが取得できなくなった後に使用するスワップカーブ(=金利スワップレートから逆算されたイールドカーブ)としては、OISカーブが唯一の選択肢だろう。
しかしクレジットスプレッドが、OISイールド+何ベーシス、という形で観測できるかというと、現状ではそのようなクレジットスプレッドはほとんどないと思われる。したがってOISカーブを選択した場合、それに乗せるクレジットスプレッドをどのように求めるか、という問題が残ることになる。
クレジットスプレッドの期間構造を考慮するか否か
社債のプライシングにおいては、クレジットスプレッドは満期によらず一定(フラット)と仮定してしまうことが多い。
この点はCDSのプライシングと大きく異なる。CDSは満期ごとに異なるCDSスプレッドからクレジットのカーブを生成して評価する。しかしこれは複数の満期におけるCDSスプレッドを観測できるCDSならではの方法であり、そもそも複数満期のクレジットスプレッドを観測できない場合には使えない。
一方、社債は様々な満期のクレジットスプレッドを観測できないことが多いため、クレジットスプレッドは満期によらず一定、と仮定することになる。市場から取得できるインプットが異なることによって、社債とCDSで時価評価の方法もかなり異なってくる。
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