社債とCDSのロング/ショートの違い

はじめに

社債とCDSはいずれもクレジット商品だが、そもそも社債は現物商品、CDSはデリバティブ商品で、異なるマーケットであり、違う点も多い。

CDSスプレッドと社債スプレッドの違い | Quant College

今回は初心者がつまづきやすい点として、債券とCDSのロングとショートの方向の違いについて見ていく。

ここで念のためだが、金融においてロングは買い、ショートは売りのことである。

社債のロングはクレジットのロング

社債のロングの意味は明らかで、社債の買いである。
社債を買うと、

  • 発行体のクレジットが悪化すると価格が下がる。
  • 発行体がデフォルトすると元本の一部が返ってこない。

すなわち、社債のロングは、発行体のクレジットリスクを負うことにより、その見返りとして、クレジットスプレッドが上乗せされた高いクーポンを受け取る、ということである。

このような状況のことを、「クレジットリスクを取る」という意味でクレジットロングということがある。

逆に、社債のショートは、社債の売りのことだが、「クレジットリスクを移転させる」という意味でクレジットショートということがある。

要するに、

  • クレジットロングは、クレジットリスクを取るということであり、社債のロングに対応する
  • クレジットショートは、クレジットリスクを移転させるということであり、社債のショートに対応する

CDSのロングはプロテクションのロング

これに対して、CDSの場合はどうか。

CDSはプロテクションレグ(Protection Leg)とプレミアムレグ(Premium Leg)のキャッシュフローの交換である。

  • プロテクションレグの支払いサイドは、発行体がデフォルトしたら、受け取りサイドのデフォルト損失分を支払う
  • プレミアムレグの支払いサイドは、発行体がデフォルトするまで、受け取りサイドに固定のプレミアム(=CDSスプレッド)を支払う

通常、「CDSのロング」と言う場合は、プロテクションレグの受け取りサイドを意味する。イメージ的には「デフォルト保険を買っているサイド」である。保険を買っているわけなので、事故が起きるまで、保険料であるプレミアム(=CDSスプレッド)を支払い続ける。つまり、プレミアムレグの支払いサイドである。

このように、CDSのロングは、プロテクションレグの受け取りサイドであることから、実務では「CDSのロング」というより、「プロテクションのロング」という言い方をする。

CDSのロング
プロテクションのロング
プロテクションレグの受け取りサイド
=プレミアムレグの支払いサイド


逆に、CDSのショートは、プロテクションレグの支払いサイドである。イメージ的には「デフォルト保険を売っているサイド」である。保険を売っているわけなので、事故が起きたら保険金を支払い、損失を埋め合わせする義務が生じる。つまり、プロテクションレグの支払いサイドである。この状況を「プロテクションのショート」という。

CDSのショート
プロテクションのショート
プロテクションレグの支払いサイド
=プレミアムレグの受け取りサイド


要するに、

  • CDSのロングは、「デフォルト保険の買い」であり、プレミアムの支払いサイド。「プロテクションロング」という。
  • CDSのショートは、「デフォルト保険の売り」であり、プレミアムの受け取りサイド。「プロテクションショート」という。

まとめ:社債とCDSでロング/ショートの経済効果が逆

以上をまとめると、以下のように、社債とCDSでロングとショートの経済効果が逆になっていることがわかる。

  • 社債のロング=クレジットロング=クレジットが悪化すると損する=クレジットリスクを取る
  • CDSのロング=プロテクションロング=クレジットが好転すると損する=クレジットリスクを移転する
  • 社債のショート=クレジットショート
    =クレジットが好転すると損する=クレジットリスクを移転する
  • CDSのショート=プロテクションショート
    =クレジットが悪化すると損する=クレジットリスクを取る

つまり、

  • 社債のロングはCDSのショート=プロテクションショートに対応する
  • 社債のショートはCDSのロング=プロテクションロングに対応する

という覚え方でいいだろう。

参考文献

新クレジット・デリバティブのすべて

Credit Derivatives: Trading, Investing, and Risk Management (The Wiley Finance Series Book 508) (English Edition)

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