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SA-CCRとは

SA-CCR (Standardised Approach for Counterparty Credit Risk) とは、銀行の規制資本のうち、カウンターパーティクレジットリスク資本(CCR資本)、CVAリスク資本、レバレッジ比率におけるEAD(デフォルト時エクスポージャー)の計算方法である。最近では規制資本計算に加えて、地銀などがCVAを概算するためのエクスポージャーの簡易計算にも応用されているようだ。さらに、KVA(資本評価調整)の計算でも、その一部でSA-CCRを使うことになるだろう。ここでは以前のツイートの続きとして、SA-CCRにおけるEADの計算方法をざっくり復習する。

SA-CCR計算式の概要

まず、SA-CCRではEADを以下の式で計算する。

\( \mathrm{EAD} = \alpha ( \mathrm{RC} + \mathrm{PFE} ) \)

EAD(デフォルト時エクスポージャー)は、自分が勝ちポジションのときに相手がデフォルトすると、その勝ち分を踏み倒されてしまうが、その踏み倒される金額のことである。相手から担保を受け取っている場合は、その担保を差し引いた残りがエクスポージャーとなる。

RCはReplacement Costの略で、カウンターパーティが今日デフォルトした際のポジションの再構築コストを表す。

PFEはPotential Future Exposureの略で、将来の市場変動から来るエクスポージャーを表す。ボラティリティはアセットクラスごとに異なるため、アセットクラスごとに求める。

\( \alpha \)という乗数は \( \alpha=1.4 \) と設定されている。\( \mathrm{RC} + \mathrm{PFE} \)の部分がざっくり計算なので、それを踏まえて、エクスポージャーを保守的に求めるために乗じる。つまり、\( \mathrm{RC} + \mathrm{PFE} \)の部分には誤差が多く、低めに見積もる恐れがあるので40%上乗せしよう、というものである。

ざっくり言うとEADはデリバティブの勝ちポジションの期待値なので、デリバティブのポートフォリオを原資産とするゼロストライクのコールオプション時価に相当する。有担保取引であれば、エクスポージャーは時価と担保価値の差分のプラスパートの期待値であるため、担保価値がストライクになる。いずれにせよEADはコールオプション時価と考えるとすっきりする。
上記のEADの式において、
・RCは本源的価値に対応する
・PFEは時間価値に対応する
と押さえておけばいいだろう。

以下ではこの、\( \mathrm{RC}, \mathrm{PFE} \)の求め方を見ていく。

RCの計算

RCはReplacement Costの略で、カウンターパーティが今日デフォルトした際のポジションの再構築コストを表す。RCの計算方法は証拠金契約 (margin agreement) の有無によって異なる。

margin agreement がない場合

証拠金契約がない場合は、以下のように求める。

\( \mathrm{RC}_\mathrm{no-margin} = \max \left[ V – C(1), 0 \right] \)

ここで、
\( V \)はデリバティブポートフォリオのネッティング後の時価
\( C(1) \)は1年後ヘアカットを考慮した担保価値
である。\( C(1) \)の1は1年後を意味しており、今日から1年間の担保価値の減少に見合うヘアカットを用いる、ということを表す。

margin agreement がある場合

証拠金契約がある場合は、以下のように求める。

\( \mathrm{RC}_\mathrm{margin} = \max \left[ \mathrm{RC}_\mathrm{margin}^\mathrm{current}, \mathrm{RC}_\mathrm{margin}^\mathrm{future} \right] \)

ここで、

\( \mathrm{RC}_\mathrm{margin}^\mathrm{current} = \max \left[ V – C(MPR), 0 \right] \)
\( \mathrm{RC}_\mathrm{margin}^\mathrm{future} = \max \left[ TH + MTA – NICA, 0 \right] \)

である。

\( \mathrm{RC}_\mathrm{margin}^\mathrm{current} \) は相手が現在デフォルトした場合の再構築コストであり、
\( \mathrm{RC}_\mathrm{margin}^\mathrm{future} \) は相手が将来のどこかでデフォルトした場合の再構築コストの見積もりである。

これらの式に出てくるパラメーターの意味を確認する。
\( MPR \) はMargin Period of Risk、いわゆるマージンピリオドで、相手の担保差し入れが滞り始めてからデフォルトが清算されるまでの期間であり、典型的には10営業日と設定される。
\( C(MPR) \) は、ヘアカットを考慮した後の担保価値である。変動証拠金を授受しているわけだが、この担保価値はデリバティブ時価VとはMPRだけタイムラグがあるため、そのタイムラグに起因する時価変動がエクスポージャーとして出てくる。それが現在デフォルトした場合のRCである \( \mathrm{RC}_\mathrm{margin}^\mathrm{current} \) に対応する。
\( TH \) はThreshold、つまり信用極度額で、勝ちポジションがこの金額を超えない限り担保授受が発生しない。
\( MTA \) はMinimum Transfer Amount、つまり最低引渡額で、担保授受額の計算結果がこのMTAを上回らない限り担保授受が発生しない。
\( NICA \) は変動証拠金以外の担保額であり、概ね当初証拠金と思っておけばよい。

\( \mathrm{RC}_\mathrm{margin}^\mathrm{future} \) は本来、将来のデリバティブ時価の変動と、将来の担保残高を考慮しないといけないのだが、そのシミュレーションを行うことなく、簡便的な式でざっくり計算している。
\(TH + MTA\) は、この金額を超えなければ相手の担保差し入れを免除する、ということなので、貸出枠つまり与信枠とみなせる。この金額を超えた場合は担保が入ってくるのでエクスポージャーが担保で相殺される。このため、この \(TH + MTA\) がデリバティブ時価と担保価値の差分、つまりエクスポージャーだと考えよう、というわけだ。そこからすでに受け取っている当初証拠金 \( NICA \)を差し引いた分を再構築コストとする。

PFEの計算

PFEはPotential Future Exposureの略で、将来の市場変動から来るエクスポージャーである。PFEは以下のように求める。

\( \mathrm{PFE} = \left( \mathrm{Multiplier} \right) \left( \mathrm{Addon} \right) \)

ここでも、\( \mathrm{Addon} \)は単純化の仮定を置いているため、ざっくり計算になっており、その誤差を補正するために\( \mathrm{Multiplier} \)が掛けられている。具体的には、\( \mathrm{Addon} \)の計算では、担保なしの将来エクスポージャーを前提としている。有担保であったとしても、その担保による将来エクスポージャー削減効果をきちんと考慮しないで計算される。その代わりとして、担保による将来エクスポージャー削減効果は\( \mathrm{Multiplier} \)を外からかけることによって反映させる。

上で説明したコールオプションのアナロジーで言うと、
\(\mathrm{Addon}\)はポジションがATM (At The Money)前提のPFEであり、
\(\mathrm{Multiplier}\)はポジションのマネーネスに応じてPFEを調整するためのものである。
いまの場合、ATMとは時価Vと担保Cが同じ、勝ちポジションをちょうど相殺するだけの担保を受け取っている場合である。
OTM (Out of The Money)だとATMより時間価値が下がるはずである。
実際、OTMのとき、つまり時価Vより担保Cが大きい場合(余剰担保)、 \( \mathrm{Multiplier}<1 \) となる。
それに対して、ITM (In The Money)の場合も、ATMと比べ時間価値は下がり、ゼロに収束するはずである。しかし、SA-CCRでは、ITMのとき、つまり時価Vより担保Cが小さい場合(担保不足)であっても、 \( \mathrm{Multiplier} \)には1が上限として設定されており、 \( \mathrm{Multiplier}=1 \)、すなわち時間価値はATMのときと同じ、ということになっている。ITMであっても、ATMと同じPFEがRCに足されてしまうので、保守的な評価になっている。

Multiplierについて

\( \mathrm{Multiplier} \)の計算式は以下の通り。

\( \mathrm{Multiplier} = \min \left[ 1, F + (1 – F) \exp \left( \frac{y}{2(1 – F)} \right) \right] \)
ここで、
\( F = 5 \% \)
\( y = \frac{V – C}{\mathrm{Addon}} \)
である。

この式の意味を考えてみる。
まず、\( \min \)があるので、必ず1以下の値になる。このことから、\( \mathrm{Addon} \)のままだと担保による将来エクスポージャー削減効果がないので、その削減効果を反映させようとしていることがわかる。
次に、\(F \)は削減効果のフロアを表す。仮に余剰担保の状態になっていて、エクスポージャーを補って余りあるほどに担保を受け取っていても、無担保エクスポージャーの5%までしか減らず、エクスポージャーがゼロにはならないことを意味する。
実際に、
\( \exp () \)の部分がゼロになると、\( \mathrm{Multiplier} = F = 5 \% \)になる。
\( \exp () \)の部分が 1になると、\( F + (1 – F) 1 = 1 \)となり、\( \mathrm{Multiplier} = 100 \% \)なのでエクスポージャー削減効果はないことになる。
\( \exp () \)の部分が 1を超えると、 \( F + (1 – F) \exp () \)の部分は1を超えるが、\( \min () \)が付いているので、\( \mathrm{Multiplier} \)が100%を超えることはない。
よって\( \mathrm{Multiplier} \)は5%と100%の間の値をとる。

では、\( \exp () \)の部分が1になるのはどういうときかというと、 V = Cのとき、つまり勝ちポジションが担保でちょうど相殺されているときである。
\( \exp () \)の部分が ゼロに近づくのは、CがVに比べて非常に大きいとき、つまり余剰担保のときである。
以上のことから、

・\( \mathrm{Multiplier} \)は余剰担保によるエクスポージャー削減効果を反映する
・しかし、その削減効果の下限は95%まで

ということがわかる。

Addonについて

\( \mathrm{Addon} \)は、以下のようにアセットクラスごとに求めて合計したものだ。

\( \mathrm{Addon} = \sum_{(a)} \mathrm{Addon}^{(a)} \)

アセットクラスは以下の5つである。
(1)金利
(2)為替
(3)エクイティ
(4)クレジット
(5)コモディティ

別々に求めてからそれを単に合計するだけ、ということはアセットクラスごとの相関は反映されないことになる。例えば金利の動きと為替の動きが将来エクスポージャーを互いに相殺していたとしても、そのネッティング効果は反映されない。

\( \mathrm{Addon} \)は、 ちゃんと計算するのであれば、将来時点のエクスポージャーを時間に渡って合計したものだ。しかし将来時点のエクスポージャーを求めるには各アセットクラスのボラティリティをもとにシミュレーションしなければならない。それは大変なので、SA-CCRでは規制当局が設定したシンプルな計算式で求める。その計算式で必要なパラメーターも規制当局があらかじめ設定している。

アセットクラスごとの \( \mathrm{Addon} \) は以下のように求める。

\( \mathrm{Addon}^{(a)} = \mathrm{SF}^{(a)} \mathrm{EN}^{(a)} \)

ここで、
\( \mathrm{SF}^{(a)} \)はアセットクラスaに対する当局設定掛目 (Supervisory Factor) であり、
\( \mathrm{EN}^{(a)} \)はアセットクラスaに対する実効元本 (Effective Notional) である。

実効元本に乗じる掛け目である \( \mathrm{SF}^{(a)} \) (Supervisory Factor) はアセットクラスごとに当局設定値が定められている。

実効元本は、取引ごとの実効元本をネッティングしたものである。
ネッティングには全部ネッティングと一部ネッティングがある。
全部ネッティングは、単に合計するだけで、
一部ネッティングは、取引の間の相関を考慮して合計する。その際に用いる相関は、アセットクラスごとに当局設定値として定められている。

取引ごとの実効元本はざっくり言うと、以下の4つを掛け算することで求まる。
(1)想定元本
(2)デュレーション
(3)デルタ
(4)期間調整項

(2)デュレーション
によって、金利系やクレジット系で期間が長期に渡る商品の残存期間を考慮する。
(3)デルタ
によって、ポジションのプラスマイナスの符号、およびリスクの大きさを考慮する。オプション取引については、デルタ計算のインプットとしてボラティリティが必要となるが、そのボラティリティはアセットクラスごとに当局設定値が定められている。
(4)期間調整項
によって、担保契約の有無を考慮する。

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