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解説
米銀が3月末、次々に多額のFVA損失を出したとRisk.netで報道されている。これについては昨日ツイートした通りだが、以下で少し深掘りしてみる。
会社によってはXVA損失として報道されており、そのうちFVAがどのくらいなのか不明だが、コロナショックによりクレジットスプレッドやファンディングスプレッドがいずれも急上昇したことが要因だろう。クレジットスプレッドが上昇するような環境では、必ずといってもいいほどファンディングスプレッドも上昇することになる。なぜならファンディングスプレッドには普通、借り入れ主体のクレジットの情報が織り込まれるからである。
リーマンショックを思い出してみると、クレジットスプレッドが全体的に垂直上げになったことにより、銀行自身のクレジットスプレッドも上がった。これによって、CVAの損失をDVAの利益が穴埋めする、ということが発生した。これを機にDVAの会計計上に疑問が投げかけられるようになり、自社のクレジットの悪化で銀行が利益を計上するのはけしからん、といった論調が強まった。
しかしその後はFVAの会計導入が進み、DVAに対応するものを、DVAではなく、FVAの一部であるFBAに含めて会計計上する、という方法が一般的となった。ここで、FVAは、コスト部分であるFCAと、ベネフィット部分であるFBAに分解されるが、FVAと言う場合は、これらFCAとFBAをネッティングしたものを指すことが多い。
DVAとFBAは大部分が共通していることから、二重計上を避けるために、大きく分けて以下の3つのアプローチが見られる。
(1)DVAを計上してFBAは計上しない:
CVA+DVA+FCA
(2)FBAを計上してDVAは計上しない:
CVA+FCA+FBA
(3)DVAもFBAも計上するが
FBAにはクレジット部分は入れない:
CVA+DVA+FCA+(FBA-DVA)
=CVA+FCA+FBA
(2)と(3)は結局同じなのだが区別して紹介されることがある。
リーマンショックのときには、FVAが会計計上されていなかったので、上記のFCAとFBAがなかった。よって、クレジットスプレッドの上昇はCVAとDVAを両方とも上昇させ、CVAは損失、DVAは利益だから、互いに相殺される形となった。当時はファンディングスプレッドも上昇したわけだが、それは会計に考慮されていなかった。
一方で現在は、FVAを計上することが一般的となっており、クレジットとファンディングの両方の影響を受けることになっている。まず、
(1)DVAを計上してFBAは計上しない:CVA+DVA+FCA
の場合を考えると、CVAの損失とDVAの利益はある程度相殺され、残るのはFCAだけである。FCAは損失であるから、これがFVA損失あるいはXVA損失として報道されることになる。当然ながら、銀行のポジションによっては、CVA計算に使われる正のエクスポージャー(勝ちポジション)と、DVA計算に使われる負のエクスポージャー(負けポジション)が、どちらかに偏っていることがある。勝ちに偏っているとCVA損失が多く出て、負けに偏っているとDVA損失が多く出ることになる。他にもカウンターパーティのCDSスプレッドと自社のCDSスプレッドの大小関係やその期間構造など、多くの要因によって、CVAとDVAがきれいに相殺されることはない、ということに注意が必要だ。
次に、
(2)FBAを計上してDVAは計上しない:CVA+FCA+FBA
の場合を考えると、もし仮に、ファンディングスプレッド上昇の影響が、FCA損失とFBA利益である程度相殺されるのであれば、残るのはCVAだけである。CVAは損失であるから、これがCVA損失あるいはXVA損失として報道されることになる。もちろん、(1)の場合と同様に、FCAとFBAがきれいに相殺されることはない。上記のようなエクスポージャーの偏りや、ファンディングスプレッドの違いなどが原因で、FCAとFBAがどちらかに偏って出てくることになる。FCAに偏ればFVA損失、FBAに偏ればFVA利益、となる。
重要なのはファンディングスプレッドの違いである。FCAとFBAで同じファンディングスプレッドを使っている会社もあるが、これら2つのスプレッドに別のものを使い分けている会社もある。FCAに使うスプレッドは借入のスプレッド、FBAに使うのは運用のスプレッド、ということだろう。しかし、以前にも書いたが、FBAに計上されるファンディングベネフィットの考え方には2通りあって、余った分を「運用に回せる」という考え方と、余った分で「借入を減らせる」という考え方である。FBAに使うスプレッドは、前者の場合は運用スプレッドなのでFCAのスプレッドとは異なるが、後者の場合はFCAと同じ借入スプレッドを使わないといけない。
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