Mutual Put条項をCVA計算でどのように考慮すればよいか?

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解説

前回の記事ではMutual Put条項などの中途解約条項の概要を説明した。

これら中途解約条項には主に3種類ある。

(1)Mandatory Break
(2)Optional Mutual Break (Mutual Put)
(3)Optional One-sided Break

今回はこれらの中途解約条項がCVAに与える影響について考える。

まずは(1)Mandatory Break だが、これは解約するのが義務であるため、解約日以降は当該取引のエクスポージャーがゼロになる。ただしシミュレーショングリッドの置き方として、解約日以降にグリッドがない場合は、このエクスポージャー低減効果が表れなくなってしまうので、解約日以降にもグリッドを置く必要がある。

次に(2)と(3)のOptional Breakだが、これらのCVAにおける扱い方には唯一の方法はないものと思われる。というのも、どのような場合に解約権を行使するか、という行使判断を計算に織り込むのは困難であるからだ。反映させようとすると簡便的な方法にならざるを得ないだろう。

参考文献のGreen本では、行使判断をきちんと計算に織り込む場合についても言及があるが、計算式に将来時点のCVAが入り込んでしまうので、何らかの工夫をすることで計算できたとしても、かなり煩雑になってしまう。

このため、実務でよくあるのは、初回の解約可能日に必ず権利行使する、と仮定する方法である。よってそれ以降は当該取引のエクスポージャーをゼロとする。しかしこれだとCVAは少なくなり、プライスはアグレッシブになってしまうので、場合によっては、一部の取引のみ権利行使すると仮定して、アグレッシブさを緩和することもあるようだ。例えば、インターバンク取引は行使するが顧客取引は行使しない、と仮定する、といった方法が考えられる。

参考文献のGreen本によると、この、初回の解約可能日に必ず権利行使する、というのは、ある一定の条件下では正しい戦略となるようだ。

FVAやKVAを考慮しない場合、Mutual Breakであれば、BilateralCVA(=CVA+DVA)でもUnilateralCVA(=CVAのみ)でも、常に権利行使するのが正しい。One-sided Breakであれば、UnilateralCVAなら常に権利行使するのが正しい。それ以外の場合は、必ずしも権利行使すべきとは限らない。

さらに細かく考えていくと、中途解約権を行使することで、カウンターパーティに支払いを要求するわけなので、マーケットストレス時にはこれがより一層、相手のデフォルト確率を高めてしまうかもしれない。これは誤方向リスクとも似ているが、その影響までを計算に反映するのは困難だろう。

以上をまとめると、Mandatory Breakは常に権利行使する、Optional Breakも一定の条件を満たせば常に権利行使する、という結論になるので、いずれにせよ初回の解約可能日に権利行使する前提で計算する、というのがある程度合理的な方法といえるだろう。そうすると初回の解約可能日以降は当該取引のエクスポージャーはゼロとすることになる。システムによっては、初回で権利行使するかどうかを設定で選べるものもあるかもしれない。そのフラグをTRUEにすると常に初回で権利行使する。FALSEにすると権利行使はせず、契約上の満期日までエクスポージャーを計算する。

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