ノベーション(Novation)の意味とは【金融/デリバティブの用語】

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金融におけるデリバティブ契約のノベーションの意味とは

ノベーション(Novation)とは、契約の譲渡や移転のことである。
結果として取引相手が変わるので、取引相手の変更や、取引当事者の交代、という理解でもよい。

具体的には、A社がB社とやっている取引を、第三者のC社に移転することである。つまり、

(ノベーション前)
銀行A vs 会社B
 
(ノベーション後)
銀行C vs 会社B

会社Bはそのまま同じ取引を継続する。ただし、取引相手(カウンターパーティと呼ぶ)は変わった。以前は銀行Aと取引していたが、ノベーション後は銀行Aとは別の、銀行Cと取引している。

ノベーション時の清算価格が出口価格

ここで、銀行Aと会社Bが金利スワップを行っていたとしよう。よくあるノベーションとして、銀行Aが当該スワップを他の銀行Cに移転する、というものである。

このとき、スワップの時価が銀行Aから見てプラス、つまり銀行Aが勝っていた場合は、銀行Aは銀行Cからその時価の分だけのキャッシュを受け取る

一方、スワップの時価が銀行Aから見てマイナス、つまり銀行Aが負けていた場合は、銀行Aは銀行Cにその時価の分だけキャッシュを支払う

このように、ノベーション時に受け払いされる金額が、デリバティブの出口価格である。出口価格は、既存取引から抜ける際に受け払いする金額であり、逆に入口価格は、新規取引に入る際に受け払いする金額である。出口価格はExit Price、入口価格はEntry Priceという。

以上は理論的にはそうするはず、という話であって、実際には当然ながら時価(いわゆるフェアバリュー)そのままの金額で受け払いするわけではない。追加でチャージやフィーと呼ばれるもので金額が調整されることになる。

評価ロジック(CVA/FVA・マルチカーブ)の違いが出口価格に与える影響

ノベーション時によくある問題として、取引から抜ける銀行Aと、新たに取引に入る銀行Cとで、評価ロジックが異なる、というものがある。

例えば、
・銀行Aは邦銀でXVAを考慮しておらず、時価を求めると100であった
・銀行Cは外銀でXVAを考慮しており、時価を求めると80であった
という場合、
・銀行Aは銀行Cから100を受け取ろうとするが、
・銀行Cは銀行Aに80を支払おうとする
というようなことがあり得る。

また、銀行Aと銀行CがどちらもXVAを考慮していたとしても、
・銀行はFVA計算に用いるファンディングスプレッドに30bpsを使っている
・銀行はFVA計算に用いるファンディングスプレッドに50bpsを使っている
ということが容易に起こり得る。

さらに、将来キャッシュフローを割り引くのに用いるディスカウントカーブについても、現在では有担保取引であればそれに紐づく担保通貨によって異なるディスカウントカーブを用いることが一般的となっている。

これについては邦銀もたいていのところが導入済みと思われるが、問題はCSA(担保契約)の担保通貨が異なる可能性である。
例えば
・銀行Aは会社BとJPY担保のCSA契約を結んでいたが、
・銀行Cは会社BとUSD担保のCSA契約を結んでいる、あるいは今回のノベーションに伴い結ぶ予定、
というような場合は、
・銀行AがJPY担保の前提で割り引いて求めた時価と、
・銀行CがUSD担保の前提で割り引いて求めた時価、
は違ってくる。

このように、会社によって評価ロジックが異なることから、出口価格がひとつに定まらない、という状態が発生し得る。

公正価値・一物一価と出口価格

財務会計上、デリバティブは公正価値で報告する必要があるが、今般、日本で新たに導入される時価算定基準では、この公正価値の定義が国際会計基準(IFRS)における定義とほぼ同じになる、ということで話題になっている。

IFRSにおけるデリバティブの公正価値の定義とは出口価格のことであり、これはつまり市場慣行に従って時価を求めることが要求されている。出口価格は自社がノベーション時にそのデリバティブから抜ける際に受け払いする金額だが、自社がノベーション時にデリバティブを譲渡する相手を事前に明確に予想することはできない。そこで、市場で一般的に用いられている評価ロジックで時価を求めれば、それが出口価格を近似することになるだろう、という考え方である。

しかしながら上記の通り、
・会社によってFVAのファンディングスプレッドが異なる
という状態は避けがたい。
これはつまり、もはや一物一価が成り立っていない、ということを意味する。

一物一価とは、同じキャッシュフローを生む取引であれば同じ価格に落ち着かないといけない、というものであり、会計上の公正価値という考え方の根底にあるものと思われる。

しかしながら、市場で一般的となっている評価ロジックでは、

同じキャッシュフローを生む取引であっても、
・担保通貨が異なれば違う割引金利になる
・ファンディングスプレッドが異なれば違う時価になる

というわけなので、現実にはもはや一物一価になっていない。これら2点はいずれも、ファンディング(借り入れ)のしかたによって時価が異なることを意味しており、一物一価の概念とは相いれないものである。

まとめ

  • 金融におけるノベーションとは、取引の譲渡や移転のことであり、取引相手を変更することを意味する。
  • デリバティブのノベーション時にはポジションの勝ち負けについて、時価を目安に現金を受け払いすることで清算する。このとき受け払いする金額を出口価格という。
  • ノベーションによってデリバティブを譲渡する際、その移転先の会社ごとに出口価格は異なってくる。その主な原因はファンディングのしかたによって時価が異なる、という点である。
  • 会計上、デリバティブの公正価値は出口価格を使うことになっているが、その出口価格が会社によって異なるわけなので、公正価値がひとつに定まらない状態になっている。これはつまり古典的な一物一価が成り立っていないことを意味する。

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