デリバティブ取引の担保契約(CSA契約)では、現金以外にも債券などの資産を担保資産に指定できる。
特に保険会社などバイサイドの顧客は日本国債などの債券を大量に保有していることから、銀行に対して債券を担保として差し出すCSA契約になっていることも多い。
このような債券担保のデリバティブ取引において、割引金利をどう設定するのかについて、昨年Risk誌で話題に挙がっていた。
現状としては、債券担保であっても現金担保と同様にOISカーブで割り引く、という対応をしている会社が多いようだが、
欧州では、債券担保の場合はレポ金利で割り引く、という対応をしている銀行が出てきている、とのことである。
まず、債券担保の取引では理想的には、当該債券のレポ金利から生成したディスカウントカーブで割り引くのが適切、ということになる。
債券を受け取ると、それを現金に変換するには、レポ取引で債券を担保として差し出し、現金を借りてこないといけない。
この借りてきた現金を返すときに支払う金利がレポ金利であるため、
債券担保でJPYの現金を借りてくる金利はレポ金利である。
このことから、債券担保のJPYディスカウントカーブとしてはレポカーブを用いる、ということになる。
これを理解するには、例えばJPY(現金)担保のUSDキャッシュフローをどのように割り引くか、を思い出せばよい。
この場合、担保で入ってくる(つまり、JPY OIS金利で借りてくる)JPYからスタートして、デリバティブ取引のキャッシュフロー通貨であるUSDをどのように借りてくるか、を考えるわけなので、
JPYを貸してUSDを借りてくる通貨スワップを行う。
すると、通貨ベーシスが差し引かれた水準のUSD金利でUSDを借りてくることになる。
この金利が、JPY担保でUSDを借りてきた場合に適用される金利であり、このJPY担保USD金利でUSDキャッシュフローを割り引かないといけない。
これを押さえたうえで、もう一度債券担保の割引金利を考える。
例えば日本国債(JGB)担保で行うJPY金利スワップを考えると、
担保として入ってきたJGBからスタートして、デリバティブ取引のキャッシュフロー通貨であるJPYの現金を借りてくる。
これはつまり、
・担保としてJGBが入ってくる
・入ってきたJGBをレポ市場に出すことで、JGBを貸してJPYの現金を借りてくる
・レポの満期で、借りてきたJPY元本と、JGBレポ金利を返済する
ということになる。
したがって、JGBレポ金利が、JGB担保JPY金利に対応するため、
JGB担保のJPYキャッシュフローの割り引きには、JGBレポカーブを使うことになる。
また、JGB担保のUSDキャッシュフローの割り引きについては、
JGBレポで借りてきたJPY Cashを、通貨スワップでUSD Cashに変換するため、
通貨ベーシスを考慮することになる。
ところが、レポ取引というのは満期が長くても数ヶ月しかないので、40年満期などが存在するスワップ取引のキャッシュフロー割り引きに用いるには、レポカーブを補外する必要がある。
言ってしまえば、レポカーブのほとんどのゾーンが補外されたカーブとなるため、市場のレポレートの水準というよりむしろ、補外の仕方によってスワップの時価が大きく変わってしまう、ということであり、
このような方法は必ずしも適切ではないように思える。
しかし、Risk誌の記事によると、一部の欧州系金融機関は、レポカーブで割り引くことについて、会計士を説得することに成功したようだ。
欧州ではレポ金利の方がOIS金利よりもさらに低くなっており、レポカーブで割り引くことで時価が高く出るため、このことが、OISカーブからレポカーブに切り替えるインセンティブとなっている。
—–