DVAとFBAの二重計上:回避する3つの方法

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DVA・FVAとは:復習

DVAはデリバティブで借りている金額のうち、自社がデフォルト(破綻)することで平均的にいくらの借金を踏み倒せるか、を表す。
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FVAはデリバティブ取引に必要な資金をマーケットで調達・運用するのにかかる費用・収益を合計したものである。FVAはFCAとFBAに分かれ、FCAがファンディングコスト、FBAがファンディングベネフィットを表す。

ファンディングベネフィットとは

デリバティブに負けポジションがあるときでも、無担保取引だとその負け分に対応する担保を差し出す必要がない

一方で、その裏でやっているヘッジ取引は有担保で勝ちポジションなので、担保を受け取る。受け取った担保は、担保に対する付利金利であるOISレートを付けて返す

このOISという低金利で借りた担保は、無担保取引のサイドでは担保として差し出す必要がないため、運用に回せる。余った担保の運用により受け取りから、OISで借りてきた担保にかかる金利による支払いを差し引いたものが、ファンディングベネフィットとなる。

二重計上問題が生じる理由

ファンディングベネフィットの計算には、余った担保の運用で受け取れる無担保貸出金利を用いるが、これは通常、無担保借入金利いわゆるファンディングレートに、スプレッドを乗せた形になっているため、無担保貸出金利にも自社のファンディングスプレッドが含まれる。そして自社のファンディングスプレッドには、自社のクレジットスプレッドが含まれる。これにより、FBA計算に用いる貸出金利に、自社クレジットスプレッドが混入することで、DVAとの二重計上問題が生じる。

つまり分解していくと、

無担保貸出金利
=(無担保借入金利)+貸出スプレッド
=(OIS+(ファンディングスプレッド))+貸出スプレッド
=(OIS+(クレジットスプレッド+流動性スプレッド))+貸出スプレッド

となる。
自社ファンディングスプレッドは、自社クレジットスプレッドと、自社流動性スプレッドの和になる。流動性スプレッドは、債券のスプレッドからCDSスプレッドを差し引くことで求めることが多いが、符号がマイナスになることもあり、実務上適切に求めるのが難しい。

二重計上問題を回避する3つの方法

二重計上問題を避けるには、以下3つのアプローチがある。

  1. DVAを計上しないで、FBAを計上する
  2. DVAを計上して、FBAは計上しない
  3. DVAを計上して、FBAは自社クレジットスプレッド部分を除いた一部のみを計上する

1.はDVAを無視して、DVAに対応するものはFBAとして考慮する方法である。
よって、CVA+FCA+FBA、となる(CVAとFCAは損失、FBAは収益)。

2.は1.とは逆に、FBAを無視して、FBAに対応するものはDVAとして考慮する。
よって、CVA+DVA+FCA、となる(CVAとFCAは損失、DVAは収益)。

3.はDVA単体の値を出したうえで、FBAからDVAを差し引いた残りの部分だけを、別枠でFBAとして計上する。
よって、CVA+DVA+FCA+(FBAの一部)、となる(CVAとFCAは損失、DVAとFBAは収益)。
わざわざDVAを別枠で求めるのは、会計XVAで要請されているのが主な理由である。

プライシングXVA、会計XVA、規制XVAの不整合

困ったことに、
・XVAのうちどれを計上するかという方針
・各XVAの具体的な計算方法
は、以下3つの目的でそれぞれ異なる。

  • プライシングXVA
  • 会計XVA
  • 規制XVA

プライシングXVAは、フロント部署で実際にデリバティブをトレードする際に、実際の取引価格に反映するXVAのこと。
プライシングXVAで一般的なのは、DVAは無視してFBAを考慮する方法である。
プライシングXVA=CVA+FCA+FBA(最近ではその他のXVAも考慮されるが。)

会計XVAは、約定済みの取引ポートフォリオを、決算で一括評価する際に反映するXVAのこと。
国際会計基準IFRSでは、DVAの計上がマストになっているとのことである。
IFRSでは、負債には自社のクレジットリスクを織り込むべきという考え方があり、DVAも自社クレジットに依存する負債の一種ということで、計上が求められるようである。
したがってDVAを計上しないフロントのプライシングとは、方針が異なる
二重計上問題を回避するには、FBAを丸ごと無視するか、FBAからDVAに対応するものを除いた残りをFBAとして考慮するか、になる。

規制XVAは、バーゼル資本規制で求められるXVA計算のこと。
バーゼル規制の資本計算では、DVAは考慮されない。このため、規制資本計算と整合的なのは、DVAを計上しない1.の方法である。逆に、DVAを計上するよう求めているIFRSの会計XVAとは不整合が生じている

まとめると以下のようになる。

  • プライシングCVAと規制CVAでは、DVAを計上せず、FBAに自社のクレジットスプレッドを含めて計上する
  • 一方、会計CVAでは、負債には自社のクレジットリスクを織り込む必要があるので、DVAを計上し、FBAは計上しないかもしくは、自社クレジットスプレッドに由来する金額を除いた残りだけを計上する

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