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ブラックショールズモデルで最低限知っておくべきこと
ブラックショールズモデルはデリバティブ市場以外でも新株予約権の評価などに幅広く使われている。
最低限知っておくべきなのは、原資産価格の変化率が正規分布に従う、ということである。原資産価格それ自体が正規分布に従うわけではない、ということに注意する。
原資産価格の(対数)変化率が正規分布に従う、という仮定からブラックショールズ公式が出てくる。
もちろん、他にも
- 完全市場の仮定
- 無裁定の仮定
などがあるが、これらはBSモデルに限った話ではなく、デリバティブプライシング全体を根本から支えているものである。
BSモデルについては何より、原資産価格の変化率が正規分布に従うという仮定が特徴である。
平均変化率と対数変化率の関係
変化率、と一口に言っても、
- 平均変化率
- 対数変化率
などがあるが、BSモデル、そして一般のプライシングにおいては、対数変化率を用いる。
平均変化率=今日の値÷昨日の値−1
であり、これは日常会話でいうところの変化率である。
しかし理論やプライシング実務では以下の対数変化率を用いる。
対数変化率=log(今日の値÷昨日の値)
つまり、
対数変化率=log(今日の値) – log(昨日の値)
平均変化率ではなく対数変化率を用いる理由は、式展開するのに都合が良いから、というのがある。これは金利について、半年複利ではなく連続複利を用いる理由と同じである。結局のところ指数関数や対数関数を使うと式展開しやすい。
ここで、平均変化率と対数変化率の関係を見てみる。
指数関数を線形近似すると、
\(\mathrm{e}^x \simeq 1+x\)
であり、対数をとると、
\(x \simeq \log (1+x) \)
と近似できる。
ここで、\(x\)に(今日の値÷昨日の値−1)、を代入すれば、
左辺が平均変化率、右辺が対数変化率
になっていることがわかる。
この線形近似はもちろん、xが十分小さくないと誤差が大きいが、平均変化率は1より十分小さいため、非常におおざっぱな近似をすれば平均変化率と対数変化率は近い、と思っておけばいいだろう。
ここで言いたいことは、下記である。
- \(x\) に変化率(例えば1%の上昇であれば、1.01から1を引いた残り)を代入すると、これは \(\log (1+x)\) に近いことがわかった
- このことから、対数をとることはつまり、例えば1.01など、1に近い値 \(1+x\) から1を差し引いて、0.01 (つまり \(x\)) という変化率の部分を抜き出すことを意味する
正規分布と対数正規分布
少し話がそれてしまったが、BSモデルで重要な仮定を繰り返すと、
- 原資産の(対数)変化率が正規分布に従う
というものである。
この仮定と、よく聞く
- 原資産価格が対数正規分布に従う
という仮定のつながりについて、以下に記載する。
原資産価格を\(S_t \)とすると、ブラックショールズモデルではおおざっぱに言って、
- \(\frac{\mathrm{d} S_t }{S_t }\) が正規分布に従う
ことから始める。これを伊藤の公式を使って書き換えると、
- \(\mathrm{d}(\log S_t )\) が正規分布に従う
ことがわかる。
この書き換えによってドリフト、つまり分布の中心は変わるが、分布の形は変わらず、正規分布のままである。
ここで、
- 一つ目の \(\frac{\mathrm{d} S_t }{S_t }\) は平均変化率に対応する
- 二つ目の \(\mathrm{d}(\log S_t )\) は対数変化率に対応する
ことがわかる。
あとは \(\mathrm{d}(\log S_t )\) の式を解くと、\(\log S_t \) 自体が正規分布に従うことがわかる。
対数をとったら正規分布に従うとき、もとの変数は対数正規分布に従うと言う。このことから、原資産 \(S_t \) は対数正規分布に従う、と仮定していることがわかる。
変化率が正規分布に従うことの意味
最後に、原資産価格の変化率が正規分布に従うという仮定について、重要なのは以下の点である。
- 正規分布は、分布の左右両端に行くに従い、確率密度が急速にゼロに近づいていく
これはつまり、正規分布では極端な値が出る確率が非常に低いことを意味する。
BSモデルでは、変化率が正規分布に従うと仮定しているので、原資産価格は極端に上がったり下がったりはしないことになる。
しかしながらオプションマーケットの参加者はそうは考えておらず、極端に上がったり下がったりすることが、けっこうあるものと想定している。
これによって、市場参加者が想定する変化率の分布は正規分布よりも裾が厚くなるため、ボラティリティスマイルが生じることになる。
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