測度論的確率論をざっくり学ぶのにおすすめの本

はじめに

この記事では、以下のような方向けにおすすめの本を紹介する。

  • ・必ずしも数学を専門としないが、
  • 数理ファイナンスをきちんと学習したいので、
  • その基礎となっている測度論的確率論をざっくり学びたい

数学を専攻する学生については、指導教官に指示を仰ぐべきだが、もし仮に数理ファイナンスに興味を持っている場合は、まず下記の本でざっくりと全体感を把握してから、より高度な専門書に進むのも一案だろう。

以下では独断と偏見で、だいたいの難易度順に並べて紹介していく(異論は大いに認める)。

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[1]

金融実務講座 マルチンゲールアプローチ入門: デリバティブ価格理論の基礎とその実際

測度変換の観点でデリバティブプライシングを解説した本だが、巻末付録に「確率論入門の入門」と題して、測度論的確率論の解説がある(40ページ弱くらい)。

  • 条件付き期待値を理解することを最終目標とし、σ加法族、確率変数、確率過程、フィルトレーション、独立性などが取り上げられている。
  • 定理の証明などは一切なく、定義の内容と、なぜそのような定義のしかたをするのか、というモチベーションが説明されている。
  • 以下で取り上げるシュリーヴ本を参考にしていると思われ、コイン投げやサイコロ投げの具体例が多くてわかりやすい
  • 前提知識は特段不要なので、以下に挙げる本を読む前の準備として、ざっと目を通しておくと挫折防止に役立つだろう。

[2]

ファイナンスのための確率解析 II (連続時間モデル)

有名な数理ファイナンスのテキストだが、第一章と第二章で測度論的確率論をざっくり取り扱っている。

  • 数学の専門書にありがちな厳密な議論を、大胆だが上手く省略しており、数理ファイナンスを学ぶ上で優先順位の高い内容を抽出している
  • コイン投げや正規分布を使った具体例が多く、説明がわかりやすい
  • ファイナンスへの応用で重要な、条件付き期待値と測度変換について、最短距離で学べる。数学科向けのテキストでは、測度変換は最後のほうでやっと登場するのだが、ほとんどの読者はそこにたどり着く前に力尽きてしまう。この本ではその心配は少ない。
  • しかし集合論の用語や記号は少し知っているほうが読みやすいだろう。

[3]

確率解析とファイナンス

確率解析のテキストだが、第一章から第四章で測度論、ルベーグ積分、測度論的確率論が上手くまとめられている。

  • とにかく定理の証明が丁寧に書かれており、どこでどの性質を使ったかが書かれているので、行間を埋める必要がほとんどない
  • 定理の証明をきちんと読んで基礎力をつけたいが、ファイナンスへの応用と関係ない部分は飛ばして進めたい、という人におすすめ
  • ただし、定義、定理、証明、が続くスタイルで、あらすじや定義・定理のモチベーションについては書かれていない。他の本で証明を読んでいてつまづいたら、補助的にこの本を参照する、という使い方も良いだろう。

[4]

測度と積分―入門から確率論へ

Measure, Integral and Probability (Springer Undergraduate Mathematics Series)

数理ファイナンスに興味のある学生向けに、測度論、ルベーグ積分、測度論的確率論を平易に解説したもの。説明がわかりやすいことで有名であり、1冊だけおすすめするなら、間違いなくこの本である。しかし残念なことに、翻訳版が入手できない状況が続いている(在庫切れというよりは絶版ではないかと思われる)。原著を読むしかないのだが、英語は平易で読みやすいため、大きな問題はないと思われるが、どうしても読むのに少し時間はかかるだろう。日本語で読みたい人は、これと似たような難易度の本として、以下で挙げる『測度・確率・ルベーグ積分 応用への最短コース』や『はじめての確率論 測度から確率へ』が良いだろう。

  • 上記で挙げた村上本やシュリーヴ本では、定理を証明して論証を積み上げていく、ということが行われていないが、この本はきちんと定理を証明していくスタイルである。
  • 定理などの証明がわかりやすい。証明の全体をステップごとに区切って、方針を説明してくれるのがありがたい。
  • 行間を埋める必要がほとんどなく、演習問題の解答も付いているため、自習に適している。
  • 測度論と確率論を交互に説明しているのが特徴で、測度論と確率論の関連を理解しやすい。
  • 数理ファイナンスへの応用を意識した具体例が豊富で、何のためにやっているのかイメージが付きやすい

[5]

測度・確率・ルベーグ積分 応用への最短コース (KS理工学専門書)

こちらも[4]ツァピンスキ本と似たような範囲をカバーしており、定理を証明していくスタイルで書かれているが、とにかく読みやすい本である。ツァピンスキ本を読みたいが、できれば日本語の本が良い、という方には最適だろう。

  • そのような定義がなぜ必要なのか、というモチベーションの部分を説明してくれるので、迷子になりにくい。
  • 証明を見せることが重要でない定理については証明が省略されており、効率良く学べる工夫が随所に見られる。本筋の議論にあまり重要でない部分がそぎ落とされている。
  • 測度論的確率論について、物語のあらすじと登場人物を理解したい、という人にもってこいの本である。

[6]

確率論 講座数学の考え方 (20)

定理を証明していく数学の専門書の体裁をとっているが、読みやすい本として有名である。

  • 数学の専門書にしては説明が丁寧で、証明も追って行きやすい。
  • きちんと読んでいくには測度論の基礎知識が必要だが、第二章で測度論の用語がコンパクトにレビューされていてありがたい。
  • 上記に挙げた本をいくつか読んで測度論を学習済みの人なら、かなりサクサク読めるはず。
  • ひとつの定理に対して複数の証明が挙げられている箇所もあり、理解が深まるだろう。

番外編

以下では番外編として、数理ファイナンスではなく、数理統計学、時系列分析、機械学習などへの応用を考えている方向けに、おすすめの本を紹介する。

その1

統計学への確率論、その先へ―ゼロからの測度論的理解と漸近理論への架け橋

比較的新しい本だが、説明のわかりやすさにかなり定評がある

  • 取り扱っているのは、独立性、色々な収束概念、収束定理、大数の法則、中心極限定理、条件付き期待値など。
  • 定理が成り立つためになぜそのような仮定が必要なのか、具体例を通して理解できるのが特徴。
  • 数理統計学、特に統計的漸近理論への応用を念頭に、測度論的確率論を概観するのに最適

その2

はじめての確率論 測度から確率へ

こちらも[4]ツァピンスキ本と似たような範囲をカバーしており、定理を証明していくスタイルで書かれている。

  • 数学科向けの専門書に比べれば説明がわかりやすく、ツァピンスキ本の翻訳版が手に入らなかった経済系の学生がよく読んでいるようだ。
  • 本の後半では、独立確率変数列、確率分布の収束について詳しく書かれており、数理統計学を深く学びたい人に適している
  • 上記で紹介した『測度・確率・ルベーグ積分 応用への最短コース』と比べると、具体例が比較的多くてイメージが付きやすいだろう。
  • 前提知識として、集合論の用語や記号および証明の進め方について、ある程度慣れている必要がある。

おわりに

いかがだっただろうか。確率論を道具として使いたい人にとって、効率的に学べて、とにかく読みやすさに定評のある本を選んだ。

他には、確率論で有名な本として、

・西尾真喜子『確率論』
・伊藤清『確率論』

などもある。しかし、これらは数学科の学生あるいは院生向けであり、上記に挙げたおすすめ本よりもさらに難易度が上がる。数学を専門としない人が、他の分野に応用する際、あくまで道具として確率論を使うのであれば、上記に挙げたおすすめ本で十分である。

その他、数理ファイナンスを学ぶ学生がよく読んでいる確率論の本として、

・デイビッド・ウィリアムズ『マルチンゲールによる確率論』

もある。これはユーモアを交えて説明しているユニークな本なのだが、本ブログ記事の筆者からすると、ノーテーションや説明の仕方が独特でクセが強い、という印象である。これはあくまで個人的な感想であり、実際、ウィリアムズ本をおすすめしている人は多いので、人によってはむしろわかりやすいのだろう。

いずれにせよ、途中で挫折しないことが重要なので、自分に合う本を見つけてもらいたい。

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