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信用リスク計測モデル
信用リスク計測モデルという場合、多くは信用VaR(バリューアットリスク)を求めるのに必要なモデルのことを指す。このモデルは大きく次の2つのアプローチに分かれる。
- 構造型モデル:
「何がどうなったら企業がデフォルトするのか」を企業財務の観点からモデル化するアプローチ。よくあるのは企業の資産価値の変動をモデル化するものである。具体例にマートンモデルなどがある。 - 誘導型モデル:
デフォルト発生のメカニズムはモデル化せず、デフォルト率の変動を直接モデル化するアプローチ。よくあるのは条件付きデフォルト確率(ハザードレート)の変動をモデル化するものである。具体例にCIRモデルなどがある。
信用VaR計算など、クレジットリスクを持つポートフォリオ全体の信用リスク計測には1.構造型モデルがよく用いられる。
一方で、クレジットリスクを持つ有価証券やデリバティブなど個別取引のプライシング・時価評価には2.誘導型モデルがよく用いられる。
信用リスクのテキストブックでも、たいていワンファクターマートンモデルなど、1.構造型モデルがメインに解説されている。
ワンファクターマートンモデル
構造型モデルの代表的な例が企業価値変動モデルであり、マートンモデルとも呼ばれる。これは企業価値(=資産価値=負債価値+資本)が負債価値を下回ったら(資本がマイナスになったら)デフォルトとみなすモデルである。
マートンモデルでは、企業価値が以下2つの要因で決まると仮定する。
・全企業に影響を与える共通リスク要因(景気など)
・個別企業に依存する個別リスク要因(個別企業の経営状態など)
つまり企業Aの企業価値を、全企業に影響を与える要因と、企業Aにしか影響を与えない要因に分解する。
共通リスク要因(システマティックリスクファクターなどと呼ぶ)を1つに限定したものをワンファクターマートンモデルと呼ぶ。共通リスク要因を2つ以上にしたものをマルチファクターマートンモデルと呼ぶ。応用上はワンファクターマートンモデルがよく使われる。
ワンファクターマートンモデルでは、企業 \(i\) の企業価値を以下の式で表す。
$$Z_i = a_i X + \sqrt{1-a_i ^2} \epsilon _i$$
ここで、
- \(Z_i\)は企業価値
- \(X\)は共通リスク要因で、標準正規分布に従う
- \(\epsilon_i \)は個別リスク要因で、標準正規分布に従う
- \(a_i\)は感応度係数で、共通リスク要因からどれくらい強い影響を受けるかの感応度を表す
- \(X\)と\(\epsilon_i\)は互いに独立
- 異なる\(i, j\)に対して、\(\epsilon_i\)と\(\epsilon_j\)は互いに独立
共通リスク要因と個別リスク要因はいずれも標準正規分布に従い、さらに互いに独立、また、異なる企業どうしの個別リスク要因は互いに独立、と仮定している。これらはいずれも計算をシンプルにするための仮定である。
信用VaR計算方法
次に、モデル化のアプローチではなく、信用VaRを求める際に用いる数値計算の手法を見ていく。つまり、ポートフォリオの損失額分布や、そのパーセンタイル点(VaR)を求める方法である。これも大きく2つのアプローチに分かれる。
- モンテカルロシミュレーション:
所定の分布に従う乱数を大量に発生させ、シナリオごとにポートフォリオの損失額を求め、出来上がった損失額分布からパーセンタイル点(VaR)を求める方法。 - 解析的手法:
シミュレーションではなく解析的に(数式で)求める方法。損失額分布に具体的な確率分布を仮定する方法や、損失額分布のパーセンタイル点を直接数式で(近似的に)求める方法がある。
バーゼル規制の内部格付手法で登場する「リスクウェイト関数」はこちらのアプローチである。グラニュラリティ調整法や鞍点近似法もこちらのアプローチに含まれる。
1.モンテカルロシミュレーションは、損失額分布の作成プロセスがシンプルでわかりやすい。また、モデルをワンファクターからマルチファクターに拡張するなど、モデルの拡張性に対応しやすいのもメリットである。
しかし一方で、計算結果を安定にするためにはシミュレーション回数を多くするなど計算負荷がかかり、非効率な計算といえる。
2.解析的手法は、計算負荷が軽く、効率的に計算できるメリットがある。
しかし一方で、損失額分布に特定の分布を仮定したり、損失額分布のパーセンタイル点を近似式で求めるので、現実を精緻に再現できるわけではない。
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