スワップションをプライシング(時価評価、価格計算)する方法は?

スワップションの分類

今回はスワップションの時価評価方法(価格の計算方法)を確認していく。スワップションは金利オプションの代表格であり、様々な仕組債や仕組預金などにも部品として含まれている。

スワップションの種類は大きく分けて以下の3つの軸の組み合わせで来まる。

  1. クーポンの種類:固定、リバースフローター、CMSスプレッドなど
  2. 権利行使の種類:ヨーロピアン、バミューダン
  3. 決済の種類:フィジカルセトル、キャッシュセトル (IRR)

特に時価評価ロジックが大きく変わってくるのは、ヨーロピアンかバミューダンか、という点である。

・ヨーロピアンであればボラティリティスマイルを考慮するだけでよいが、
・バミューダンであれば、ボラティリティスマイルに加えて金利の期間構造を考慮する必要がある。

というのも、
ヨーロピアンは1つの期間の金利さえモデリングできていればきちんと評価できるが、
バミューダンは複数の期間の金利を同時にモデリングできていないときちんと評価できない。

以下では最も一般的なものとして、バニラスワップション、つまり、
・クーポンの種類が固定(=原資産スワップが固定金利 vs IBORレートのもの)
かつ
・権利行使の種類がヨーロピアン
かつ
・決済がフィジカルセトル
であるものについて書いていく。

バニラスワップションのプライシング(時価評価)

時価評価の方法は大きく2つに分かれる。

  1. モデルを使ってスマイルをきちんと反映する方法
  2. 市場で見えるストライクのVolをモデルなしで補間する方法

1.は証券会社などのデリバティブ業者、
2.は地銀やバイサイドなど
が使っている方法だ。もちろん市場慣行としては1.の方法なのだが、地銀やバイサイドではそれほど精緻に評価する必要性がないからか、2.の方法も広く使われている。

1.の方法はSABRモデルが業界標準となっている。

SABRモデル

バニラのプライシングモデルではSABRモデルがデファクトスタンダードになっている。SABRモデルには多数の派生型があり、各社異なるものを使っている。基本的なものとしては、マイナス金利に対応できるようにシフト幅を導入したShifted SABRモデルである。フォワードレートが従うダイナミクスは以下の通り。

\(dF_t = \sigma_t (F_t + \theta)^\beta dW_{t} ^F \)
\(d\sigma_t = \nu \sigma_t dW_{t} ^\sigma \)
\(dW_{t} ^F dW_{t}^\sigma = \rho dt \)
\(\sigma_0 = \alpha \)

フォワードレートとそのボラティリティが相関を持って確率的に動く、というモデルである。

時価評価の手順としては、
(1)モデルをマーケットにキャリブレーションする
(2)キャリブレーション結果を使って時価評価
という2段階になる。

これはスワップと同様である。スワップでも
・第1段階としてマーケットのスワップレートに対してディスカウントファクター(DF)をキャリブレーションし、
・第2段階としてそのDFを使い時価評価する。

スワップションなどのオプションの場合は、
・第1段階としてSABRスマイルモデルのパラメーターをキャリブレーションにより決定し、
・第2段階としてキャリブレーションの結果で決まったSABRパラメーターを使い時価評価する。

キャリブレーションとは、モデルがマーケットにフィットするようにモデルパラメーターを決定することであり、機械学習でいうところの「学習」や「訓練」に対応する。キャリブレーションの一般的な内容は以下の記事を参照。

SABRモデルのキャリブレーションについては以下の記事を参照。

Black式/Bachelier式

地銀やバイサイドはスワップションをSABRなどのスマイルモデルなしで時価評価している。その手順は以下の通り。

  1. マーケットからATMボラティリティマトリックスを取得
  2. 評価対象のスワップションのオプション満期とスワップ期間に対応するマーケットボラティリティを、二次元補間して取得(線形補間など。当然ながらモデルを使わない補間。)
  3. 取得したマーケットボラティリティを (Shifted) Black式またはBachelier式に代入して時価を得る

マーケットボラティリティが、
・Blackボラティリティの形式でクォートされていればBlack式に代入する
・Normalボラティリティの形式でクォートされていればBachelier式に代入する
ということになる。

このような方法は、マーケットから取ってこれるインプライドボラティリティを価格の形式に変換しているだけである。インプライドボラティリティとはつまり価格をボラティリティの形式に変換したものであり、インプライドボラティリティそれ自体が価格なのである。既にマーケットで見えている価格をボラティリティの形式で取ってきて、それを金額の形式に変換するのに使うのが、Black式やBlack-Scholes式、Bachelier式である。これについては以下の記事を参照。

フォワードプレミアム

金融危機後のオプション取引では、オプションプレミアムが後払いにすることが一般的となった。後払い、というのはつまり、オプション満期日から見てスポット、言い換えるとオプション満期日の2営業日後、にプレミアム(キャッシュ)の受け払いが行われる。これはカウンターパーティリスクを軽減するために導入されたもので、フォワードプレミアムという。スワップションが最もフォワードプレミアム化が進んでいる。そのほか、通貨オプションや株式オプションでも普及してきている。

上記で書いてきたSABRモデルなどはオプション価値の求め方だが、 フォワードプレミアムの場合、スワップションの時価評価をするには、以下の2つを合計する必要がある。

・オプション価値
・後払いのプレミアムの価値

2つ目については、プレミアムの金額は契約時に決定しているため、あとは単に割り引くだけである。そして求まったプレミアム価値をオプション価値とネッティングすれば時価が得られる。オプション買いの場合はオプション価値がプラスでプレミアム価値がマイナス(支払い)になる。オプション売りの場合は逆である。

あわせて読みたい