なぜ通貨オプションではストライクをデルタでクォートするのか?

ざっくり回答

理由はいくつもあると思われるが、だいたい以下のあたりだろう。
・マーケットではスマイルのダイナミクスがスティッキーデルタに近いから
・スポット為替が少し動いたところで、クォートされるボラティリティが大きく変化しないようにするため(ボラティリティクォートの安定性を担保するため)


スティッキーデルタについては以下の記事を参照。

補足

デルタは何を表しているのか?

デルタが表しているのは、ざっくり「スポットからスタートして満期までの間にストライクに到達する確率」である。
よって、同じ25デルタでも、
・満期が短いオプションの25デルタは、ストライクで言うとアットザマネーにかなり近いが、
・満期が長いオプションの25デルタは、ストライクで言うとアットザマネーからかなり離れている

ということになる。しかし、満期が長くなるほど、スポットから離れているところに到達しやすくなるので、「到達確率が同じ場所」という指定の仕方をすると、満期が長いほどその到達場所はスポットから離れたところになる。

さらにざっくり言うと、デルタは「ストライクがスポットから相対的にどれくらい離れているか」を表しているともいえる。

スポット変化に対するATMボラティリティの安定性

また、それとは別の話として、「スポット為替が少し動いても、アットザマネー(ATM)のボラティリティはそれほど動かず安定している」という見方もある。

ちなみに、スポットが動いたときにATMボラティリティが辿る軌跡のことをバックボーンという。スポットが上がったときATMボラティリティが下がるのであればバックボーンは右下がりとなる。

スポット変化に対するATMボラティリティの安定性について、単純化した例で見ていく。

・アットザマネーが100だとする。
・ アットザマネー、すなわちストライクが100のボラティリティが8%とする。
・ストライクが105のボラティリティが10%とする。

ここで、スポット為替が円安に行って、アットザマネーが105に変化したとしよう。

もしストライクをデルタではなく、為替レートの水準(絶対ストライクということもある)で設定していると、現在のアットザマネーは105になったので、ATMボラティリティはストライクが105のボラティリティ、すなわち10%になる。

・アットザマネーが100のときはATMボラティリティが8%だったのだが、
・アットザマネーが105になるとATMボラティリティが10%になる。

ボラティリティのクォートがこのような動き方をすると、マーケット感覚に合わないので見にくい、ということである。

スティッキーデルタだとどうなるか

デルタでクォートしていれば、スポットからの相対的な距離でストライクが定義される。そして、この「スポットからの相対的な距離」ということの意味は、「スポットからスタートして満期までにそこに到達する確率」である。

スティッキーデルタというのは、例えば25デルタについては、スポットが100から105に動いたとしても、25%の確率で到達できるストライクのボラティリティはほとんど動かない、ということである。ここで、25デルタをストライクの絶対水準に直すと、スポットが円安に動いているため、25デルタのストライクも円安に動いていることに注意しよう。

スティッキーデルタであれば、
・ATMボラティリティが8%で、
・25デルタコールのボラティリティが10%とすると、
スポットが100から105へ円安に動いた後であっても、
・ATMボラティリティが8%、
・25デルタコールのボラティリティが10%のまま、
ということになる。
このように、スポットが動いても、デルタが同じボラティリティは動かない(スティッキーである)、ということを意味している。

参考文献

The Front Office Manual: The Definitive Guide to Trading, Structuring and Sales (Global Financial Markets) (English Edition)

Foreign Exchange Option Pricing: A Practitioner’s Guide (The Wiley Finance Series Book 626) (English Edition)

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