ざっくり解説
前回の続き。
ストラングルはストライクの異なるコールとプットの組み合わせなのだが、そのマーケットクォートは、ボラティリティ1つで行う。コールとプットでオプションが2つ必要で、かつ、ストライクが異なるわけだから、本来は、ボラティリティが2つ必要になるはずである。なぜなら、市場にはボラティリティスマイルが存在しているため、ストライクが異なればボラティリティも異なるからである。ストライクの異なるコールとプットの組み合わせであれば、
・コールのストライクのボラティリティ
・プットのストライクのボラティリティ
とボラティリティが2つ必要になる。にも関わらず、Single Volatility1つでクォートするコンベンションになっている。
なぜなのか。理由を2つ挙げると、以下の通り。
⑴業者間でプライスが高いか安いかをひと目で判断したいから
⑵通貨オプションが始まった当初はリスクリバーサルがゼロに近かったから
まず⑴の理由だが、コールとプットで別々のボラティリティをクォートした場合、例えば以下のような状況が発生するだろう。
・コールのボラティリティは証券会社Aの方が低いが、プットのボラティリティは証券会社Bの方が低い
このような場合、ストラングル全体として見たとき、A社とB社のどちらの方が安いのか、ひと目でわからない。もちろん、コールのプライスとプットのプライスをそれぞれ出して合計し、比較すればいいだけのことではある。しかし、トレーダーはせっかちなので、そんな回りくどいことをやっていられないのである。ひと目でどちらが高いか、どちらが安いか、わかるようにしたい。
そこで、
・コールとプットに同じボラティリティを使う
という決まりにしたわけである。そうすれば、1つのボラティリティの高低でストラングル価格の高低を見分けることができる。
次に、⑵の理由だが、これは歴史的な理由であろう。通貨オプションはもともと、数えるくらいの少ない通貨ペアしかトレードされていなかったはずである。現在で言うところのEUR/USDなど、いわゆるハードカレンシー同士の通貨ペアであれば、スマイルのスキューがきつくなっておらず、リスクリバーサルがゼロに近かったのではないか、と考えられる。
前回に詳しく見た通り、リスクリバーサルがゼロだと、ストラングルはコールのボラティリティとプットのボラティリティの違いがなくなり、マーケットコンベンションであるSingle Volatilityに一致する。このため、リスクリバーサルがゼロに近いような左右対称のスマイルだと、Single Volatility1つでクォートする合理性があるだろう。デルタの絶対値が同じコールとプットにおいて、ボラティリティにあまり差がないからである。