NormalボラティリティとBlackボラティリティの変換公式

Normal Volはマイナス金利になる前から金利オプションで使われていたが、ここにきて原油がマイナス価格になったことで原油オプションにも使われ始めている。ここで改めて、Normalボラティリティと、もともと使われていたBlackボラティリティの間の、変換公式について書いてみる。当然ながら、最も正確なのは、Blackモデルで出した価格がNormalモデルで再現するように、Newton法などの数値解法で解く方法である。しかしここでは数値解法を使うことなく解析的に出せる式をいくつか列挙する。

まずはモデルのダイナミクスを書いてみると、Blackモデルは

$$dF_t = \sigma_B F_t dW_t$$

Normalモデルは

$$dF_t = \sigma_N dW_t$$

である。\(F_t\)はフォワードレート、\(W_t\)はフォワードメジャーのもとでのBrown運動である。これを見比べると、Normal VolとBlack Volは単純に、

$$\sigma_B F_t \approx \sigma_N$$

と変換できるのでは、と思うかもしれない。しかしこれは近似的にしか成立せず、正確にはイコールではない。上記はダイナミクス同士を比べているだけであり、実際にはBlack式やBachelier式というややこしい関数を経由して、得られる価格が同じになるようにボラティリティを変換しないといけないからである。

それでも、近似ではあるがざっくりした水準感はこれで得られるので、現場でもよく使われている。上記のようにBlack Volにフォワードレートをかけて得るボラティリティには呼び名がいくつもあり、人によって言い方が異なる。
・Basis Point Vol
・Normalized Vol
・Normal Equivalent Vol
などである。Normal Volの近似としてよく用いられる。

しかしながらこれでは正確ではない。より精度の高い近似式は、SABR論文で有名なHaganがBloomberg時代に書いたメモが有名であり、そこにある式を転載すると、

$$\sigma_N \approx \sigma_B \frac{F – K}{\log{F/K}} \frac{1}{1 + \frac{1}{24}(1 – \frac{1}{120} \log^2 F/K) \sigma_B^2 \tau + \frac{1}{5760} \sigma_B^4 \tau^2 }$$

\(F\)はフォワード、\(K\)はストライク、\(\tau\)は残存満期である。ややこしい分母のうち、

$$\frac{1}{120} \log^2 F/K$$

$$ \frac{1}{5760} \sigma_B^4 \tau^2 $$

の2つの項は他と比べて小さいため、無視しても大きく変わらない。よってこれらを省略すると、

$$\sigma_N \approx \sigma_B \frac{F – K}{\log{F/K}} \frac{1}{1 + \frac{1}{24} \sigma_B^2 \tau }$$

を得る。この式はたまにテキストにも登場するもので、けっこう使える。

しかし上記の式はフォワードがストライクに近い、つまりATMに近いと、ゼロをゼロで割ることになるので使えない。ストライクがATMに近いときは、以下の式を使う。

$$\sigma_N \approx \sigma_B \sqrt{FK} \frac{1+\frac{1}{24}\log^2 F/K}{1 + \frac{1}{24} \sigma_B^2 \tau + \frac{1}{5760} \sigma_B^4 \tau^2}$$

ただし上記と同様、\(\frac{1}{5760}\)の項は小さいので無視してもあまり変わらないだろう。その場合、ATMに近いケースの近似式は、

$$\sigma_N \approx \sigma_B \sqrt{FK} \frac{1+\frac{1}{24}\log^2 F/K}{1 + \frac{1}{24} \sigma_B^2 \tau }$$

が使える。さらに、\(\frac{1}{24}\)の項も比較的小さいからということで無視すると、

$$\sigma_N \approx \sigma_B \sqrt{FK}$$

となる。最後に、FとKが近いとして、F=Kと近似すれば、元のざっくり近似式に戻ることがわかる。

ところで、前提知識として強調しておくべきことは、NormalモデルもBlackモデルもプライシングモデルではなく、スマイルを反映できる何らかの別のプライシングモデルで求めた価格の単位を、ボラティリティに変換するために使われている、ということである。例えばSABRモデルでプライシングした結果、その価格をボラティリティに変換するためにNormalモデルやBlackモデルが使われる。Normal VolやBlack Volはいずれもマーケットクォートの表示形式に過ぎない。

参考文献

“Volatility Conversion Calculators” Patrick S. Hagan

Normalモデル(Bachelierモデル)については以下に詳しく書かれている。

上記は金利系に特化した本だが、以下は金利系に限らず多くのトピックを広く浅く書かれている。Normal Volへの変換公式についても記述がある。

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