ノンコールのCMSスプレッドオプションのプライシングで一般的なのはSABRモデルとガウシアンコピュラの組み合わせだ。円やユーロなど低金利通貨ではShiftedSABRを用いる。
ここで重要なのは、バニラスワップション、CMSオプション、CMSスプレッドオプションの3つを互いに整合的にプライシングしないといけない、ということだ。
バニラスワップションのプライシングはSABRモデルでボラティリティを補間すればOKだ。
一方で、CMSオプションとCMSスプレッドオプションには、スマイルモデルに加えて、それ用のプライシングモデルあるいはプライシングロジックが必要になる。
CMSオプションで一般的なのはReplication法であり、これはCMSのためにダイナミクスを仮定する必要がなく、モデルではない。モデルフリーなロジックなのだが、インプットとしてスマイルモデルが必要になる。スマイルモデルをインプットして、数値積分によりCMSオプションをプライシングするロジックだ。
ここでインプットするスマイルモデルは、バニラスワップションのプライシングモデルでもあるため、このロジックによりバニラスワップションとCMSオプションは整合的にプライシングされる。つまり、将来のスワップレートの分布に同じ分布を用いていることになる。
次に、CMSスプレッドオプションを、バニラスワップションとCMSオプションと整合的にプライシングすることを考えるのだが、ここで壁にぶち当たることになる。
スプレッドを構成する2つのCMSの相関を考慮しないといけないが、そうすると、2つのCMSになんらかの二次元の分布を仮定してオプションプライシングすることになる。
二次元正規分布や二次元対数正規分布などのキレイな分布であれば、スプレッドオプションを比較的容易にプライシングできる。
二次元正規分布を仮定すれば、スプレッドも正規分布になるので、容易に評価できる。
二次元対数正規分布を仮定すれば、Brigo-Mercurioの本にあるように、一次元の数値積分に帰着できる。
しかしながら、バニラスワップションのプライシングにはスマイルモデルを用いており、SABRモデルからインプライされる複雑な分布を用いないといけない。
仮に二次元正規分布などと仮定すると、CMSスプレッドオプションでは正規分布、CMSオプションではSABRとなり、同じ原資産であるCMSに対して、商品によって異なる分布を仮定していることになる。
したがって、CMSにはSABRからインプライされる分布を用いないといけない。
しかし、二次元SABRモデルのもとでスプレッドオプションを評価できるかというと、かなり難しい。
このように、相関を考慮してツーファクターのプライシングをしようとすると、CMSの分布にはシンプルな分布を仮定するしかない。
一方で、CMSの分布をスワップションと整合的にしようとすると、相関を考慮してツーファクターのプライシングをするのが困難になる。
このジレンマを解決するのがコピュラである。
コピュラでは、ひとつひとつのファクターの周辺分布と、その相関構造を、分解することができる。
いまの例では、周辺分布にはSABRを用いて、相関構造には二次元正規分布を用いる、というようなことができる。
周辺分布は市場にフィットした複雑な分布を用いながらも、それらをくっつけるときの相関構造はできるだけシンプルなものを用いる、というわけである。
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