【ブラックショールズモデル】Black-Scholes公式とは:直感的に解説【簡単にわかりやすく】

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はじめに

今回は、ブラックショールズモデルにおけるバニラオプションの価格評価式(有名なBlack-Scholes式)の意味を、フォワードの価格式と比較することで、なるべく直感的に理解してみる。

フォワードとオプションの価格式を比較する

まず、ブラックショールズモデルにおける仮定のうち、その一部ではあるが、以下を思い出しておこう(完全市場や無裁定など根本的な前提は省略)。

  • 金利と配当はDeterministicで一定
  • ボラティリティはDeterministicで一定
  • 原資産は幾何ブラウン運動(従って対数正規分布)に従う

これらの条件のもとで、満期\( T \)、原資産ロングのフォワード取引の時点\( t \)における価格式は、

$$S_t \mathrm{e}^{-q(T – t)} – K \mathrm{e}^{-r(T – t)} = \mathrm{e}^{-r(T – t)} ( F_t (T) – K )$$

となる。ここで、\( F_t (T) := S_t \mathrm{e}^{(r – q)(T – t)} \) は原資産\( S \)のフォワードレートである。

一方で、バニラコールオプションに関するBlack-Scholes式は、

$$ S_t \mathrm{e}^{-q(T – t)} N(d_1) – K \mathrm{e}^{-r(T – t)} N(d_2) = \mathrm{e}^{-r(T – t)} ( F_t (T)N(d_1) – K N(d_2) ) $$

である。フォワード取引の価格式に\( N(d_1 ), N(d_2) \)が掛けられただけ、ということがわかるだろう。ここで、\(N()\)は標準正規分布の累積分布関数であり、

$$ d_1 := \frac{1}{\sigma \sqrt{T – t}} \left( \log{\frac{S_t}{K}} + (r – q + \frac{1}{2} \sigma^2)(T-t) \right) $$
$$ d_2 := d_1 – \sigma \sqrt{T – t} = \frac{1}{\sigma \sqrt{T – t}} \left( \log{\frac{S_t}{K}} + (r – q – \frac{1}{2} \sigma^2)(T-t) \right) $$

である。\( d_1 , d_2 \)は原資産価格から行使価格までの距離(のようなもの)を表す。アルファベットの\(d\)が使われているのは、距離 (distance) の頭文字\(d\)から来ていると思われる。

フォワードの価格式とバニラオプションのBlack-Scholes式を見比べると、

  • 似ているのは、原資産価格から行使価格(ストライクレート)を引いたもの、つまり満期におけるペイオフの形になっているという点
  • 一方で、異なるのは、コールオプションの価格式には、原資産価格と行使価格(ストライクレート)に、権利行使する確率が乗じられているという点

ここで、「権利行使する確率」と言っているのは、\( N(d_1 ), N(d_2 )\)のことであり、これらはいずれも「満期でインザマネーになる確率」を表している。インザマネーになるとは、
・コールオプションであれば原資産価格>行使価格
・プットオプションであれば原資産価格<行使価格
の状態であり、権利行使するメリットがある状態のこと。
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よって、Black-Scholes式は、満期で権利行使した場合のペイオフに、権利行使する確率をかけた形になっている。

これは当然といえば当然である。なぜなら、フォワードと違ってオプションでは、満期でインザマネーになって権利行使しないと、ペイオフが発生しないからである。ペイオフを確実にもらえるのではなく、権利行使できた場合に限ってもらえるので、権利行使できる確率(つまりインザマネーになる確率)をペイオフに掛け算することで、価格(の絶対値)を下げている。

\(d_2 \)はどこから出てくるのか

以上が要点なのだが、補足として、\( N(d_1 ), N(d_2 )\)が権利行使する確率であることについて、ざっくり見ていきたい。しかしながら、\( N(d_1 )\)と\(N(d_2 )\)の違い、つまり\(d_1 \)と\(d_2 \)の違いをきちんと理解するには、測度変換の話をする必要がある。これについては別の記事で説明することにして、本記事ではより簡単な\(N(d_2 )\)について考えてみる。

\(d_2 \)がどこから出てくるかというと、行使価格\(K\)の対数を標準化することで出てくる。Black-Scholesモデルでは原資産価格は対数正規分布に従うので、原資産価格の対数は正規分布に従う。したがって、そこから期待値を引いて標準偏差で割れば(つまり標準化すれば)、標準正規分布に従う。これにより、確率が標準正規分布の累積分布関数で表されることになる。以下ではこのことについて、ステップごとに段階を踏んで、少し詳しく見ていこう。

満期における原資産価格の対数

Black-Scholesモデルにおいて(配当ありの)原資産価格は、リスク中立確率測度のもとで以下のダイナミクスに従う。

$$\frac{\mathrm{d}S_t }{S_t} = (r – q) \mathrm{d}t + \sigma \mathrm{d}W_t$$

伊藤の公式から、原資産価格の対数が従うダイナミクスは、

$$\mathrm{d}\log{S_t} = (r – q – \frac{1}{2}\sigma^2 )\mathrm{d}t + \sigma \mathrm{d}W_t$$

とわかる。これについてはいったん、そういうものだと認めよう。
両辺を時間について積分すると、満期における原資産価格の対数は、以下のように表される。

$$ \log{S_T} =\log{S_t} + (r – q – \frac{1}{2}\sigma^2 )(T – t) + \sigma (W_T – W_t ) $$

ブラウン運動の話を標準正規分布の話に変換する

次に、ブラウン運動の性質から、この\( \log{S_T} \)の期待値と分散はそれぞれ以下のようになる。

$$ \mathbb{E} [ \log{S_T} ] = \log{S_t} + (r – q – \frac{1}{2}\sigma^2 )(T – t) $$
$$ \mathbb{Var} [ \log{S_T} ] = \sigma ^2 (T – t) $$

よって、原資産価格の対数を標準化すると、

$$ \frac{\log{S_T} – \mathbb{E} [ \log{S_T} ] }{ \sqrt{ \mathbb{Var} [ \log{S_T} ] } } = \frac{\sigma (W_T – W_t )}{\sigma \sqrt{T – t}} = \frac{ W_T – W_t }{\sqrt{T – t}} $$

となるが、これは標準正規分布に従う。

以上と同じことだが、別の言葉で言うと、ブラウン運動の性質から、\( W_T – W_t \)の期待値はゼロ、分散は\(T – t\)であることから、標準正規分布に従う確率変数\(z\)を用いて、

$$ W_T – W_t = z \sqrt{T – t} $$

と書き換えることができる。

権利行使する確率を標準正規分布を用いて表す

上記の結果を使って、満期にインザマネーになる確率を、標準正規分布の累積分布関数\(N()\)で表すわけである。

コールオプションがインザマネーということは、\(S_T > K \)ということだが、これは対数関数の単調性から、両辺の対数をとって、

\(\log{S_T} > \log{K}\)

と書き換えられる。
左辺を標準化するために、両辺から\(\log{S_T}\)の期待値を引いて標準偏差で割れば、

$$ \frac{\log{S_T} – \mathbb{E} [ \log{S_T} ] }{ \sqrt{ \mathbb{Var} [ \log{S_T} ] } } > \frac{ \log{K} – (\log{S_t} + (r – q – \frac{1}{2}\sigma^2 )(T – t)) } {\sigma \sqrt{T – t} }$$

となる。ここまでくると\(d_2 \)に近い形になっているのがわかるだろう。
左辺は、正規分布に従うものを標準化したわけだから、標準正規分布に従う確率変数\(z\)で表せる。さらに右辺からマイナスの符号をくくり出すと、

$$ z > – \frac{ \log{S_t} – \log{K} + (r – q – \frac{1}{2}\sigma^2 )(T – t) } {\sigma \sqrt{T – t} } $$

となる。右辺はまさしく\(d_2 \)そのものである。

あとは、標準正規分布の対称性から、\( z > -d_2 \)となる確率は\( z < d_2 \)となる確率に等しい、ということを使うと、インザマネーになる確率はつまり、\( z < d_2 \)となる確率、すなわち\(N(d_2 )\)であることがわかる。

\(d_1, d_2 \)の意味(何を表しているのか)

行使価格\(K\)の対数から、原資産価格の対数の期待値を引いて標準偏差で割ると、\(d_2\)が現れることを確認した。

以上を踏まえて、\(d_2\)が何なのか考えてみると、行使価格の位置が標準正規分布のどこに対応するのか、を表しているといえる。もう少し噛み砕いて言うと、オプションのインザマネー/アウトオブザマネーの度合い、つまり、どれくらい権利行使できそうかを表しているさらに言い換えると、原資産価格が行使価格に対してどれくらいの位置にあるかを表す。

これは\(d_2\)のうち、

$$ \log{\frac{S_T}{K}} = \log{S_T} – \log{K} $$

の部分を見ればわかる。実際、

  • コールオプションがDeep In The Money(ディープインザマネー)、つまり原資産価格が行使価格を大きく上回ると、\(d_2\)が大きくプラスになり、\(N(d_2)\)は1に近くなる
    • すなわち、ほぼ確実に権利行使する(権利行使する確率がほぼ100%)計算になる
    • \( N(d_1 ), N(d_2 ) \)が1になると、オプション価格式はフォワード価格式に一致する
  • コールオプションがDeep Out of The Money(ディープアウトオブザマネー)、つまり原資産価格が行使価格を大きく下回ると、\(d_2\)が大きくマイナスになり、\(N(d_2)\)は0に近くなる
    • すなわち、ほぼ確実に権利行使しない(権利行使する確率がほぼゼロ)計算になる
    • この場合、\( N(d_1 ), N(d_2 ) \)はともにゼロに近くなるので、オプション価格はゼロに近くなる

\(N(d_1 )\)と\(N(d_2 )\)の違い

実は、\(N(d_1 )\)と\(N(d_2 )\)はどちらもインザマネーになる確率なのだが、ニューメレールと確率測度が異なるだけである。

  • \(N(d_2 )\)は銀行預金がニューメレールの確率測度、においてインザマネーになる確率
  • \(N(d_1 )\)は原資産がニューメレールの確率測度、においてインザマネーになる確率

これについては別の記事で書いてみたい。

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