アジアンオプションとは:価格計算とモーメントマッチング

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アジアンオプションとは

アジアンオプションとは、一定期間の原資産の平均値を参照するオプションである。

以下のような別名もあるが、どれも同じものを指している。

  • エイジアンオプション
  • アベレージオプション
  • 平均オプション

アジアンオプションは教科書のエキゾチックオプションの章でよく出てくるが、実務で出くわすのは、コモディティデリバティブくらいだ。原油価格や金属価格を参照するデリバティブをコモディティデリバティブという。これらコモディティ価格を参照するオプションには、アジアンオプションが多い

アジアンオプションの分類:3つの軸

アジアンオプションには多くの種類があり、以下のような軸で分類できる。

  1. バニラオプションのペイオフ式における、原資産価格を平均値で置き換えるか、行使価格を平均値で置き換えるか
  2. 平均値の計算方法が幾何平均算術平均
  3. 原資産価格のサンプリング方法が、離散サンプリング連続サンプリングか

1.については、コールオプションであれば、バニラオプションのペイオフ式は \(\max { S_T – K, 0 }\) だが、この原資産価格\(S_T\)を平均で置き換えるものもあれば、行使価格\(K\)を平均で置き換えるものもある。

  • 原資産価格に平均を用いるのがアベレージプライスオプション
  • 行使価格に平均を用いるのがアベレージストライクオプション

という。

2.については、実務で出くわすのは多くが算術平均である。幾何平均のほうが理論的に扱いやすく、算術平均のほうは価格計算に工夫が必要となる。

3.については、原資産価格のサンプルを取得する頻度の違いである。

  • 月次でサンプリングする(例えば毎月末の終値で平均を求める)場合などは離散サンプリングという
  • 日次でサンプリングする(例えば毎営業日の終値で平均を求める)場合などは連続サンプリングという

幾何平均と算術平均が従う分布

コモディティ価格も株価などと同様、簡単のためにブラックショールズモデルを使うことは多い。このとき、コモディティ価格は対数正規分布に従う。対数正規分布に従う確率変数は、正規分布に従う確率変数\(X\)を用いて\(e^X\)と表せる。

もし仮に幾何平均の分布を知りたいのであれば、幾何平均はかけ算なので、\(e^X e^Y\)の分布を知りたいことになるが、これは\(e^{X+Y}\)と同じである。ここで正規分布の再生性から、\(X+Y\)も正規分布である。よってかけ算したものもまた、対数正規分布に従うことがわかる。

では、コモディティ価格の算術平均はどのような分布に従うのか?

算術平均は足し算なので、対数正規分布を足し合わせたものの分布を知りたいことになるが、これは対数正規分布ではない
対数正規分布に従う確率変数の和なので、\(e^X + e^Y\)の分布を知りたいのだが、一般にその分布はきれいな分布にはならない。

つまり幾何平均の分布はわかるが、算術平均の分布はわからない。しかしプライシングしたいのは算術平均の方だ、ということである。

モーメントマッチング法によるプライシング

そこで実務では、算術平均オプションを時価評価するために、厳密な解析解ではなく、近似解法を用いる。いくつか方法があるが、一般的なのは、モーメントマッチングである。

ポイントは、算術平均の真の分布はわからないが、算術平均の真の平均と真の分散は求めることができる、という点だ。

モーメントマッチングでは、算術平均の分布を、算術平均と同じ期待値と分散を持つ対数正規分布で近似する
算術平均の真の分布は対数正規分布ではないので、分布全体としては合っていないのだが、期待値(一次モーメント)と分散(二次モーメント)は真の分布と合っていることになる。

あとは、算術平均が対数正規分布に従うと思ってBlack式でプライシングする。Black式にインプットするフォワードボラティリティに、算術平均の真のフォワードと、真のボラティリティをインプットすればよい。
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