はじめに
本業と関係ないが気になったので調べてみたシリーズ。
新興国の企業やプロジェクトに投資する場合、バリュエーションのために将来キャッシュフローの割引率(WACC)が必要になるが、新興国の株主資本コストをどのように求めればよいかが問題となる。
株主資本コストといえば、日本の証券アナリスト(CMA)試験や米国証券アナリスト(CFA)試験ではCAPMなどの話が必ず出てくる。CAPMは個別株のリスクプレミアムを株価指数のリスクプレミアムから求める話であった。
一方で、ダモダランモデル(Damodaranモデル)というのは、新興国の株主資本コストを求めるのに実務でよく用いられるようである。新興国の株主資本コストは、基準となる国(米国など)の株主資本コストに、カントリーリスクプレミアム(CRP)を加えて求める。つまり、
(新興国の株主資本コスト)
=(米国の株主資本コスト)+(カントリーリスクプレミアム)
として、この(カントリーリスクプレミアム)を求める方法の一つがダモダランモデルというわけだ。
Damodaranモデルによる算出方法
ダモダランモデルは、よりシンプルなクレジットスプレッド法を改善したものなので、まずはクレジットスプレッド法について確認する。
クレジットスプレッド法とは、カントリーリスクプレミアムをクレジットスプレッドで代用する方法である。つまり、
(新興国Xの株主資本コスト)
=(米国の株主資本コスト)+(新興国Xのクレジットスプレッド)
と求める。カントリーリスクプレミアムをクレジットスプレッドで置き換えただけである。
しかしながら、クレジットスプレッドは債券市場で観測されるものだが、債券市場よりも株式市場の方が投資家から要求されるリスクプレミアムは高いだろうと考えられる。そこで、このリスクプレミアムの違いを、債券市場と株式市場のボラティリティの比率で調整しよう、というのがDamodaran Modelの考え方である。
クレジットスプレッドを債券市場のボラティリティで割って株式市場のボラティリティをかければ、株式市場のボラティリティの方が高ければクレジットスプレッドが少し大きく評価されることになる。つまり、
(新興国Xのカントリーリスクプレミアム)
=(新興国Xのクレジットスプレッド)
×(新興国Xの株式市場のボラティリティ)
÷(新興国Xの社債市場のボラティリティ)
として求める。よって、株主資本コストは、
(新興国Xの株主資本コスト)
=(米国の株主資本コスト)+(新興国Xのカントリーリスクプレミアム)
=(米国のリスクフリーレート)+(米国の株式リスクプレミアム)
+(新興国Xのクレジットスプレッド)
×(新興国Xの株式市場のボラティリティ)
÷(新興国Xの社債市場のボラティリティ)
と求める。ここで、米国の株主資本コストをリスクフリーレートと株式リスクプレミアムに分解した。
パラメーターなどの参考資料
上記の式を計算するのに必要なパラメーターと計算結果は、New York UniversityのDamodaran教授のホームページから取得できる。パラメーターは定期的にアップデートされているようだ。
http://pages.stern.nyu.edu/~adamodar/New_Home_Page/datafile/ctryprem.html
http://pages.stern.nyu.edu/~adamodar/New_Home_Page/
上記のウエブサイトには、基準国を米国とした場合のカントリーリスクプレミアムの一覧が掲載されている。株式市場と債券市場のボラティリティの比率をかけた後のクレジットスプレッドが、Adj. Default Spreadとして載っている。
ここで、
- 株式市場のボラティリティは、S&P Emerging Market BMI (Equity Index)という指標のボラティリティ
- 債券市場のボラティリティは、BAML Emerging Mkt Public Bond Spreadという指標のボラティリティ
を用いているようだ。これらは国によらないので、クレジットスプレッドにかける比率はどの国も一定の値になっている。
さらに、Adj. Default Spreadは、国別のソブリンCDSスプレッドではなく、Moody’s格付けごとのスプレッドが用いられている。Moody’s格付けがない国はS&P格付けが適用されているようだ。よって、国別ではなく格付けベースになっているので、格付けが同じだとクレジットスプレッドも同じになっている。これはCDSスプレッドが取得できない国も多いので止むを得ないものと思われる。上記のウエブサイトにはいちおうソブリンCDSスプレッドも表に載っている。
参考文献
参考になったサイトはこちら
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