コロナショックでの流動性枯渇は、厳しすぎる金融規制の副作用では?

以下のRisk.netの記事と関連して、個人的な見解を書いてみる。

https://www.risk.net/derivatives/7504371/swap-liquidity-slumps-as-treasury-stress-spreads

コロナショックを受けて、株価暴落や米金利の急低下などに加え、オファービッドが急拡大しており、市場流動性の枯渇も話題になっている。

今回の流動性低下の引き金はコロナショックなわけだが、アルゴリズム取引の増加や、人間トレーダーのリモートワークなども、流動性低下の要因として挙げられていた。しかし根本的な原因は、リーマンショック後に矢継ぎ早に導入された、厳しすぎる金融規制なのかもしれない

ここ10年ほどの金融規制によって、グローバルバンク界隈では以下のような変化が起きたと認識している。

・米国のボルカールールなどを受け、自己勘定取引(プロップトレーディング)が大幅に減少

・同様に、マーケットメーク業務が縮小され、さらにマーケットメーク業務自体をシステムで自動化することが一般化

・規制コストの高いセールス&トレーディング部門は縮小する一方で、資産運用やプライベートバンキングといった富裕層向けビジネス(ウェルスマネジメント)に注力する、というのが業界全体で一般化

・金融機関の経営陣のリスク許容度が低下、それを受けてトレーダーのリスク許容度も低下し、アグレッシブなポジションが取れなくなった

これらの変化はほぼ全て、マーケットが大きく動いた際に、市場流動性を低下させることにつながっていると考えられる。要するに、厳しすぎる規制のせいで、金融機関がトレーディングでリスクテイクできなくなっていることが、流動性低下を招いている可能性がある。さらにその流動性低下によって、さらに市場変動が加速しているように見える。金融危機を受けて導入した規制によって、マーケットクラッシュが深刻化しているのだとすれば、これほど皮肉な話はないだろう。

逆に言うと、金融規制のおかげで、金融機関のリスク許容度は低下しており、流動性や自己資本をこれでもかと積んでいるので、大手金融機関がデフォルトする可能性はかなり下がっているといえる

一方で、バイサイドや事業法人など、金融商品のエンドユーザーにとってはどうだろうか。彼らは金融機関の顧客なわけだが、市場のクラッシュと景気後退懸念を受けて、流動性確保のために取引を解約しようとしても、そのフローをさばいてくれる金融機関が少ないわけである。運良く取引相手が見つかっても、オファービッドが急拡大しているので、顧客にとって過度に不利なプライスが提示されてしまう。平常時においても、大手金融機関に課された規制コストは、当然ながら、ある程度は顧客に転嫁されているわけだが、特に今回のようなマーケットクラッシュ時には、より一層、そのコストを顧客に負担してもらわないといけないだろう。