P&Lとインプライドボラティリティとリアライズドボラティリティの関係

デルタヘッジされたオプションのP&Lは、大まかに言って、インプライドボラティリティとリアライズドボラティリティの差分から出てくる。このことを確認する。

時間変化ΔtにおけるP&Lをテイラー展開で要因分解すると、

$$PnL = (Theta) ( \Delta t) + (Delta) ( \Delta S) + \frac{1}{2} (Gamma) (\Delta S)^2 \\ + (Rho) ( \Delta r) + (Vega) ( \Delta \sigma_{imp}) + … $$

Rhoは金利に対する感応度、\(\sigma_{imp}\)はインプライドボラティリティである。最後の・・・にはGamma以外の2次以降の高次Greeksが含まれる。

ここで以下の仮定を置く。
・このオプションはデルタヘッジされている
・金利の感応度であるRhoは無視できる
・インプライドボラティリティは一定
・Gamma以外の2次以降の高次Greeksは無視できる
すると、

$$PnL \approx (Theta) (\Delta t) + \frac{1}{2} (Gamma) (\Delta S)^2$$

と近似できる。

ここで、Black-ScholesのPDEを思い出そう。

$$Theta + r S (Delta) + \frac{1}{2} \sigma_{imp}^{2} S^2 (Gamma) – r V = 0$$

これに対して上記の仮定を用いると、Deltaの項は消え、さらに金利rを無視すると、

$$Theta \approx – \frac{1}{2} \sigma_{imp}^{2} S^2 (Gamma)$$

となる。これを先ほどのP&Lの式に代入すれば、

$$PnL \approx (Theta) \Delta t + \frac{1}{2} (Gamma) (\Delta S)^2$$
$$\approx – \frac{1}{2} \sigma_{imp}^{2} S^2 (Gamma) (\sqrt{ \Delta t })^2 + \frac{1}{2} (Gamma) (\Delta S)^2$$
$$= \frac{1}{2} S^2 (Gamma) \left[ \left( \frac{\Delta S}{S} \right) ^2 - \left( \sigma_{imp} \sqrt{\Delta t} \right) ^2 \right]$$

を得る。[ ]内は、第1項がリアライズドバリアンス(Realized Variance)、第2項がインプライドバリアンス(Implied Variance)に対応する。バリアンスは分散であり、ボラティリティの2乗である。特にトータルバリアンスと言うときは、ボラティリティの2乗に満期までの時間Tをかけたものを指す。第2項のインプライドバリアンスの方は、インプライドボラティリティの2乗に時間Δtがかかっており、インプライドのトータルバリアンスである。一方で、第1項のリアライズドバリアンスの方は、ボラティリティではなく原資産S自体の変動率に由来するものである。デルタヘッジされたポートフォリオのP&Lは、大雑把に言って、リアライズドバリアンスとインプライドバリアンスの差分から出てくることがわかる。ただし、Gammaの項が全体にかかっていることに注意。

実際に、リアライズドボラティリティとインプライドボラティリティの差分を取りに行くトレードもよく行われている。しかし上記でも仮定したように、デルタヘッジしていることが前提になる。一方、デルタヘッジすることなく、リアライズドバリアンスに対する賭けを直接行うのが、バリアンススワップである。次回はバリアンススワップについて改めて確認してみよう。

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参考文献