Liborマーケットモデル: マイナス金利とスマイル

金利の期間構造モデルのうち、マーケットモデルの典型的なものがLiborマーケットモデル、略してLMMである。

フォワードLiborひとつひとつにダイナミクスを仮定し、同じメジャーのもとで全てのフォワードLiborの変動をモデル化する。
ある将来時点における全てのフォワードLiborが求まれば、そこから全ての満期の割引債価格、つまりディスカウントファクターが得られる。
このようにイールドカーブ全体をマルっとモデル化するのが期間構造モデルである。
なお、全てのフォワードLiborや全ての満期の割引債価格と書いたが、当然ながら最長満期はインプットで指定することになる。最長満期以降のイールドカーブは補外される。
 
LMMはコーラブルCMSスプレッドなど、金利系エキゾチック商品に幅広く使われていたが、最近は以前に比べて見かける機会が減った。
ある会社では、マイナス金利に対応できないからというだけの理由でいったんLMM系のモデルからHull-White系のモデルに戻したようだ。
これはおそらく、Liborをシフトさせずにピュアな対数正規でモデル化していたからだろう。その場合はマイナス金利に対応できない。
しかしLiborをShiftedLognormalでモデル化しておけばいいだけのことであり、Liborマーケットモデルがマイナス金利で使えないわけではない。
 
ShiftedLMMはマイナス金利になる前から使われていたが、その目的はマイナス金利ではなく、金利のボラティリティスキューを考慮するためである。Shiftedにすることでボラティリティスマイルの右下がりの形状を表現できる。
 
LMMで、ボラティリティスマイルの傾きに加えて曲率も表現したい場合は、確率ボラティリティを導入するのが一般的である。
このとき、金利と金利ボラティリティの相関は簡便化のためにゼロにすることが多い。相関でスキューを表現できるが、相関が入るとモデルが煩雑になるため、シフトさせることでざっくりとスキューを入れる。
スマイルの曲率は確率ボラティリティのボラティリティでコントロールする。
確率ボラティリティのダイナミクスとしてはHeston型とSABR型の2種類があるが、Heston型を見かけることが多い。確率ボラティリティはHestonだとCIR型のダイナミクス、SABRだと対数正規型のダイナミクスを仮定する。
 
このようにシフト幅と確率ボラティリティの両方を導入したLMMのことをSVDD-LMMと書くこともある。Stochastic Volatility Displaced Diffusion LMMである。これにより金利スマイルの傾きと曲率をともにコントロールできることになる。

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