はじめに
今回からは、個別のテーマについて深く学びたい方向けの本を紹介していく。まず今回は金利の期間構造モデルである。
金利のトピックは大きく以下の3つに分かれる。
- マーケットレートからイールドカーブを作成するロジック(マルチカーブ)
- (特定の期間の)金利のスマイルを表現するモデル
- (複数の期間の金利をまとめて表現する)期間構造モデル
本記事では3つ目の期間構造モデル、つまりイールドカーブ全体をまとめてモデリングする話を対象とする。今回も独断と偏見で、だいたいの難易度が易しいものから難しいものの順に列挙する。
[1] 中村本
体験デリバティブ マルチカーブのもとでわかるハル・ホワイト・モデル- かなり前から出版されていた本の改訂版であり、日本語でHull-Whiteモデルの実務を詳しく解説している本として貴重である
- 付属のExcelファイルで計算過程と数値例を確認できるため、実務家にとって計算のイメージがつきやすいだろう
- キャリブレーションやツリー構築など実務的なトピックもカバーされており、説明も丁寧である
[2]
基礎からわかるLIBORマーケット・モデルの実務(CD-ROM付き)- 日本語でLIBORマーケットモデルが学べる貴重な本
- 特徴は、キャリブレーション方法にかなりのページが割かれており、実務家にとってありがたい、という点
- 付属のExcelファイルで計算過程と数値例を確認できるため、実務家にとって計算のイメージがつきやすいだろう
- シフト幅や確率ボラティリティの導入など、発展的な話題は簡単にしか触れられていないので、何かしら洋書を読む必要がある
- 測度変換など確率解析の基礎についても書かれているが、直感的な説明でわかりやすい
[3]
Stochastic Interest Rates (Mastering Mathematical Finance)- Mastering Mathematical Financeというシリーズ物であり、そのうち金利モデルを担当している本
- 特徴は、薄くてコンパクトにまとまっているので、短期間で重要な内容を押さえることができる点
- コンパクトな本だが、ショートレートモデル、HJMフレームワーク、Liborマーケットモデル、と一般的な内容がきちんとカバーされている
- 金利モデル初学者向けの教科書として書かれており、説明に飛躍が少なくわかりやすい
[4] 木島本
期間構造モデルと金利デリバティブ (シリーズ 現代金融工学)- 日本語で金利の期間構造モデルを学ぶのであれば、現在でもこの本がテキストとして有名
- 内容が少し古いが、期間構造モデルの基礎的な内容がきちんとした数式で書かれている
- 式展開がけっこう省略されており行間を自分で埋める必要があるが、それによって式展開の基礎体力がつくので特に学生や若手クオンツがじっくり学ぶのに良いだろう
[5] Filipovic本
Term-Structure Models: A Graduate Course (Springer Finance)- それほど有名な本ではないが、イメージとしては前述した木島本の英語版であり、理論をきちんと学びたい人におすすめ
- 金利モデルで測度変換がどのように用いられているのかが詳細に分かる
- 後述するBrigo-Mercurioほど分厚くないので読み切ることも可能だが、前述の「Stochastic Interest Rates」よりは分厚い
- あくまで理論をきちんと学びたい人向けなので、キャリブレーションなど実務的な話題は他の本で学ぶのが良いだろう
[6] Brigo-Mercurio本
Interest Rate Models – Theory and Practice: With Smile, Inflation and Credit (Springer Finance) by Damiano Brigo Fabio Mercurio(2006-08-02)- 金利モデルで非常に有名な本であり、クオンツはたいてい持っている
- 特にショートレートモデル、Libor Market Modelについて非常に詳しく書かれており、それ以外にも金利モデルの基礎について、たいていのことは書いてある
- 後述するAndersen-Piterbarg本と比べると、式展開や説明の仕方が教育的で読みやすい印象である
- しかし、いかんせん出版されてから時間が経っているため、Andersen-Piterbarg本と比べると、新しい内容があまり書かれていない
[7] Andersen-Piterbarg本
Interest Rate Modeling. Volume 2: Term Structure Models by Leif B. G. Andersen Vladimir V. Piterbarg(2010-08-17)- 金利モデルについては今のところこの本が最も詳しいといえる
- 金利モデルの教科書として最近ではBrigo-Mercurioよりもメジャーになっており、クオンツはみんな持っている
- これは3分冊の2冊目であり、ちなみに1冊目は確率解析とプライシング基礎、3冊目は金利リスク管理について書かれている
- Hull-Whiteモデルについても、現代的な書き方(ショートレートをガウシアンファクターとシフトパラメーターの和として書く書き方)で説明されている
- その他、Cheyetteモデル、Quadratic Gaussianモデル、キャリブレーション対象を選択するロジック、Callable Libor Exoticsのプライシング、Markovian ProjectionとParameter Averaging、最小二乗モンテカルロ法の注意点など、比較的新しい話や実務的な話も詳しく書いてある
- イメージとしては、Brigo-Mercurioは学生や新人クオンツ向けに説明している感じだが、Andersen-Piterbargは金利デリバティブの実務経験がある読者向けに書かれている印象である