リスク中立確率測度におけるドリフト項

デリバティブのプライシングモデルでは、リスク中立測度における資産価格のダイナミクスから話が始まることが多い。その場合、

 

・株価など、資産価格のドリフトは無リスク金利になっている
・金利、デフォルト強度、確率ボラティリティなどのドリフトは無リスク金利になっていない
 
この違いは何なのか。
 
ここで、資産価格といっているのは、市場で売買可能と仮定している資産の価格のことであり、資産とは、
・株式
・原油や金などの、コモディティ
・外貨
・割引債
などである。
 
株式やコモディティが最もわかりやすいだろう。これらは市場で売買可能である。株式の価格をモデル化したのが株価モデルであり、コモディティも同様である。
 
外貨は、外国為替市場で売買可能だ。外貨、ドルなら
ドルという資産の価格を国内通貨、円なら円建てで表したものが為替レートである。この為替レートをモデル化したのが為替モデルである。
 
割引債は他と少し異なるが、それは、本当は市場であまり取引されていない、ということである。
取引されている債券の多くは利付債であり、満期の元本償還以外に、クーポンのキャッシュフローが発生するため、割引債とは根本的に異なる。
しかしながら、たいていの金利モデル、特にHJMのフレームワークに含まれる金利モデルでは、割引債を市場で売買できると仮定して話を進める。
 
これら資産価格は市場で売買可能と仮定することで、そこから派生したデリバティブのプライシングには、無裁定価格理論を適用し、その帰結として、リスク中立測度における原資産価格のドリフトが、無リスク金利となる。
 
一方で、金利や確率ボラティリティは、それ自体が取引可能な資産ではない。このため、金利や確率ボラティリティ自体に無裁定価格理論が適用されない。
・取引可能な資産の価格は、無裁定の仮定による制約を受けるが、
・取引できないものは、その制約を受けないわけである。
 
そういうわけで、金利や確率ボラティリティのドリフトは自由に決めることができる。
実際には、もっともらしい性質として、平均回帰性をもつ、と仮定することが多い。この平均回帰性をもつようにドリフト項が設定されていることが多い。
 
具体例は以下の通り。
 
・Hull-Whiteモデルであれば、
  ・割引債価格のドリフトは、無裁定の仮定により
   無リスク金利になっているが、
  ・ショートレートは平均回帰性をもつような
   ドリフトになっている
 
・Hestonモデルであれば、
  ・為替レートのドリフトは、無裁定の仮定により
   無リスク金利の差分になっているが、
  ・確率ボラティリティは平均回帰性をもつような
   ドリフトになっている
 

 

 

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