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回答
最近ではQuantitative Financeという。
昔はFinancial Engineeringと呼ばれていたが、最近では金融工学の専門家は、Financial Engineeringという用語はあまり使わない。
補足
Financial Engineering
「金融工学」という日本語はFinancial Engineeringの直訳である。
初めに日本に金融工学が輸入されてきたときは、英語がFinancial Engineeringだったので、それを直訳したものが広まった。
この金融工学という訳語は現在でも広く使われているが、専門家はあまり金融工学という用語をあまり使わなくなってきている印象ではある。というのも、金融工学に対応する、Financial EngineeringやQuantitative Financeがカバーする範囲は、広すぎるからである。
一方で、欧米の大学院で金融工学の修士課程が多く開講されているが、これらはよく「MFE; Master of Financial Engineering」というコース名が付けられている。これは昔、Financial Engineeringと呼んでいた頃の名残だと思われるが、MFEプログラムという名前で日本でも話題に上がることがある。
Quantitative Finance
最近では、「金融工学」に対応するような、幅広い分野を含む用語としては、Quantitative Financeがよく使われる。
論文投稿サイトのarXivでも、Quantitative Financeが使われている。
日本語に直訳すると「数量ファイナンス」となり、これを講義名にしている大学もある。
Quantitative Financeは以下で出てくるような個別の分野を全て含む言い方である、ということを覚えておくといいだろう。
他の呼び方は?
金融工学には多くの分野が含まれる。以下は全て、金融工学の中の一分野に過ぎないので、Quantitative FinanceやFinancial Engineeringよりはカバーする範囲がかなり狭いことに注意しよう。
- Mathematical Finance
- Financial Mathematics
- Computational Finance
- Financial Econometrics
- Statistical Finance
- Financial Economics
1.Mathematical Finance
Math Financeと略されることもあるが、日本語だと「数理ファイナンス」である。この用語は「金融工学」に比べると狭い範囲を指しており、実務への応用や数値計算など工学的なアプローチではなく、応用数学として研究する分野である。ざっくりしたイメージとしては、抽象的な命題を主に確率解析を用いて数学的に証明していく分野、という感じである。
研究の題材としては、デリバティブ評価やポートフォリオ最適化、が多い。
2.Financial Mathematics
日本語に直訳すると「金融数学」となる。これは欧米の金融工学の修士課程で取れる学位の名前、という文脈でよく見かける。Mathematical Financeに近いイメージではあるものの、
・Mathematical Financeはアカデミアで最先端の研究をしている、というような文脈で出てくるが、
・Financial Mathematicsは修士課程で将来金融機関に就職する前提で学んでいる、というような文脈で出てくる、
という印象である。
3.Computational Finance
これは日本語だと「計算ファイナンス」となり、大学の講義名にも使われる。
主にデリバティブ評価を題材に、そこで必要な数値計算のアルゴリズムを開発する研究分野である。
4.Financial Econometrics
これは日本語だと「計量ファイナンス」となり、大学の講義名にも使われている。
金融データを用いて統計的に推定・検定をする分野で、主に時系列分析による実証研究が行われている。この分野で用いられている手法は、以前は伝統的な統計学・計量経済学と同様のものだったが、最近では機械学習が応用されるようになっている。「ファイナンス機械学習」に近い分野といえる。
5.Statistical Finance
これは上のFinancial Econometricsとほぼ同じ分野を指している。論文投稿サイトのarXivでは、Financial Econometricsではなく、Statistical Financeという分野名が用いられている。
6.Financial Economics
これは日本語だと「金融経済学」となる。ファイナンス理論を経済学の道具、例えば効用最大化や市場均衡、などを用いて研究する学問である。研究テーマが抽象的なものが多く、アプローチとしてはかなり数学的な手法で研究されているので、イメージとしてはMathematical Financeに近い。しかし金融商品の価格付けについては、Mathematical Financeでは主に「無裁定」の考え方でアプローチしているのに対して、Financial Economicsでは「均衡」の考え方でアプローチしている。「無裁定」よりも「均衡」の方が強い条件で、より理想的な状況を想定しているように思われる。
まとめ
金融工学を英語で言うと、
- Quantitative Finance
- Financial Engineering
のどちらかだが、最近ではQuantitative Finance(数量ファイナンス)を使うことが多い。
その他、関連する用語としては以下のようなものがあり、それぞれ微妙にニュアンスが違うので注意しよう。
- Mathematical Finance:数理ファイナンス
- Financial Mathematics:金融数学
- Computational Finance:計算ファイナンス
- Financial Econometrics:計量ファイナンス
- Statistical Finance:統計ファイナンス
- Financial Economics:金融経済学