スマイルダイナミクスとデルタ
前回記事の補足。
ローカルボラティリティモデルでは、原資産の動きと逆向きにスマイルが動くことを確認した。このようなスマイルダイナミクスがデルタに与える影響を確認する。
スマイルのダイナミクスを考慮すると、デルタは次のように書ける。
デルタ=BSデルタ+BSベガ×(∂IV/∂F)
ここでは、スポットデルタではなくフォワードデルタで書いている。BSデルタはBlack-Scholesモデル前提のデルタ、BSベガはBlack-Scholesモデル前提のベガである。最後に付いている ∂IV/∂F がポイントだが、これはインプライドボラティリティのフォワードに関する偏微分である。
ここで、簡単のためにスマイルの形状はATMが最も低く、それを頂点とする下に凸の放物線とする。ローカルボラティリティモデルでは、フォワードが上昇すると、スマイルは左にシフトする。このとき、
・左ウィング(ATMより低ストライクの部分)はボラティリティが下がる
・右ウィング(ATMより高ストライクの部分)はボラティリティが上がる
ということになる。固定した特定のストライクにおけるボラティリティを定点観測すれば、上記のような動きをする。すると、
・左ウィングは、∂IV/∂F < 0
・右ウィングは、∂IV/∂F > 0
しかしながら、多くのスマイルは、上記のローカルボラティリティモデルとは逆のダイナミクスとなる。つまり、フォワードが上昇すると、スマイルは右にシフトする。このとき、
・左ウィング(ATMより低ストライクの部分)はボラティリティが上がる
・右ウィング(ATMより高ストライクの部分)はボラティリティが下がる
すると、∂IV/∂F の符号は、ローカルボラティリティモデルにおけるものとは符号が逆になる。
もう一度デルタを確認すると、
デルタ=BSデルタ+BSベガ×(∂IV/∂F)
であり、BSベガ×(∂IV/∂F) の部分がスマイルによる調整で加えた項である。しかし、ローカルボラティリティモデルではこの部分の符号が逆になってしまう、ということは、スマイルを考慮したデルタが、古典的なBSデルタよりも、現実のデルタから乖離してしまうことになる。符号が逆のものを足してしまうからである。要するに、むしろスマイルを考慮しないほうがマシだったのに、ということである。
もちろん、スマイルのダイナミクスがローカルボラティリティモデルと同じになる場合もあるだろうから、その場合は問題ないといえる。しかし実際には、原資産が上がったときにスマイルが左シフトではなく右シフトする例は多いため、そのような場合は、ローカルボラティリティモデルだとデルタが古典的なBSデルタよりもおかしな値になってしまう。
そこで、このような問題を解決するために出てくるのが、確率ボラティリティモデル、および、確率ローカルボラティリティモデルである。