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以下の記事の続きである。
解説
上記の記事で(2)Conversionタイプと紹介したCoCo債は、さらにいくつかの種類に分かれる。このタイプのCoCo債はトリガーにヒットすると株式に転換されてしまう。その際に交付される株式数は、CoCo債の元本を転換価格で割ることで求まる。よって、
・転換価格が高いと、交付される株式数は少なくなる
・転換価格が低いと、交付される株式数は多くなる
この転換価格の設定方法は、大きく分けて2種類ある。
(1)CoCo債発行時の株価をもとに決める
(2)トリガーヒット時の株価をもとに決める
まず、(1)については、CoCo債発行時の株価をS(0)とすると、転換価格Kは
K = α S(0)
と設定する。αは掛け目である。
よくあるのはα = 1とするケースであり、この場合、転換価格は発行時の株価S(0)と一致する。株式に転換される場合はトリガーにヒットしているわけなので、株価はかなり下がっているだろう。このため、転換価格が発行時の株価となっていると、たいてい転換価格の方が足元の株価より高くなっている。
このため、投資家に交付される株式数は少なくなり、CoCo債の投資家は損失を被る。投資家にとっては、株式を転換価格で買わされるのだから、転換価格の方が足元の株価よりも高いと、市場実勢よりも割高に株式を買わされているわけだ。
CoCo債の投資家に交付される株式数が少なくなるということは、既存株主からすると、1株利益の希薄化が小さくダメージが少ない。
掛け目αの設定方法については、α = 1以外にも、例えばα = 2/3くらいで設定される場合もあるようだ。
次に、(2)については、株価に転換されるトリガーが引かれた時の株価をS(t)とすると、転換価格Kは
K = max{ S(t), S_F }
と設定する。S_Fは転換価格のフロアであり、これより転換価格が低くなることはない。トリガーヒット時の株価とフロアとで大きい方が転換価格となる。
ここで、仮にフロアが付いていなかった場合を考えてみよう。つまり、転換価格がトリガーヒット時の株価となる場合だ。この場合、CoCo債の投資家からすれば、転換価格が市場実勢の株価と同じなので、フェアな価格で株式を買うことになるため、損失はない。つまり、フロアが設定されておらず、転換価格がトリガーヒット時の株価になっていると、CoCo債の投資家は損失を負担しないことになる。
しかしこのようなケースはまずない。なぜなら、そもそもCoCo債の設計思想は、「金融機関の経営が危なくなったら、CoCo債の投資家に損失を負担してもらおう」というものだからだ。フロアが設定されていないとCoCo債の投資家はノーダメージであるため、そのようなケースはないだろう。その代わり、転換価格のフロアS_Fは、トリガーヒット時の株価よりも高くなるように、発行時にあらかじめ設定される。そうすると転換価格Kは、市場実勢の株価S(t)よりも高いS_Fに設定されるため、CoCo債の投資家に一定割合の損失を負担させることができる。