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はじめに
学生向けシリーズ。金融業界でのクオンツという職業の将来性について、私見を書いてみる。
クオンツには大きく分けて4種類ある。デリバティブクオンツ、キャピタルクオンツ、アルゴトレードクオンツ、バイサイドのクオンツ、である。
バイサイドのクオンツはさらにクオンツアナリストとクオンツファンドマネージャーに分かれる。なお、ややこしいことに、クオンツアナリストという仕事は、実はセルサイドの証券会社やその証券グループ内のシンクタンクにもいる。彼らはバイサイドのクオンツアナリストと同様、投資判断に役立つデータ分析をしているのだが、分析がバイサイドだと社内向けが中心、セルサイドだと社外向けが中心ということで、仕事の内容は少し異なる。セルサイドのクオンツアナリストは業界全体で見てもかなり人数が少ないと思われるので、この記事では省略している。
では以下で順番に、各クオンツの将来性について私見を書いていくことにしよう。
デリバティブクオンツ
デリバティブクオンツは、主に証券会社、銀行、システムベンダーにいて、デリバティブのプライシングモデルを調査、開発、検証などする人たちだ。調査するのはリサーチクオンツ、開発するのはクオントディベロッパー、検証するのはバリデーションクオンツ、などと呼ばれる。その他、トレーダーの横に座ってツール開発などをするデスククオンツ、という人たちもいる。
デリバティブクオンツの将来性はイメージとしては5段階で2くらいだろう。ひと昔前のように新しい商品やモデルが次々に出てくる、ということは今後はないだろうと思われる。最近では一時的にXVAの開発が盛り上がったし、今後はLiborからRFRへの移行で開発案件が出てくるだろう。しかし新しいモデルを導入するような仕事はあまり増えないと思われる。
一方で、最近ではディープヘッジングなど、機械学習を用いたデータドリブンのヘッジロジックなどが開発されており、データサイエンスをデリバティブに応用するケースは増えるだろう。つまり、今までほど確率解析など高度な数学の占めるウェイトは下がり、むしろデータハンドリングやトライアンドエラーで学習モデルをチューニングしていく、というような仕事が増えるだろう。ざっくり言うと数学からプログラミングへ、あるいは、確率解析・金融工学から統計・機械学習へ、という変化がすでに起こり始めている。
このように、使う技術が変化するものの、デリバティブ自体がすぐになくなるわけではないため、デリバティブクオンツの仕事は引き続き残るだろう。デリバティブのニーズとは、事業会社などの実需に根差したヘッジ取引、および、資産運用目的の仕組債や仕組預金などである。これらが完全になくなるのはかなり先のことだろうと思われる。しかし大手金融機関はデリバティブなどのトレーディングについて、規制でがんじがらめになっているため、規制コストが高すぎるビジネスだからということで、デリバティブビジネスにはもはやそれほど力を入れていない。
デリバティブクオンツ以外は専門ではないため、又聞きの若干粗めの情報になるが、私見を書いていく。
キャピタルクオンツ、リスククオンツ
キャピタルクオンツの将来性はイメージとしては5段階で3くらいだろう。リスククオンツとも呼ばれるが、彼らはVaRやESなどのリスク測定に使うモデルの開発などを行なっている。これらは市場リスクだが、それ以外にも信用リスク、オペリスク、統合リスクといろんなリスクの種類があり、それらの測定に必要なモデル開発、リスク値の管理・モニタリング・報告などを行う。これらのリスクは規制資本の計算にも使われる。最近ではカウンターパーティクレジットリスク(CCR)やCVAリスクなども加わっている。彼らは規制対応のために雇われているという側面もあり、現在は市場リスクの分野でFRTBの対応に追われているだろう。
キャピタルクオンツやリスククオンツの仕事は、金融機関である以上はなくならないだろうと思われる。新しい規制というのは、今はピークを過ぎた感があるものの、今後も発生するであろう金融危機や不祥事のたびに、新しい規制が入ることになるだろう。規制において何かしら計算しないといけないとか、データを整備したりシステム対応が必要となると、キャピタルクオンツの仕事は増えるだろう。リスクの測定やモニタリングはデリバティブに限らず現物取引でも必要なことなので、今後デリバティブ取引が減っていっても、やるべき仕事はたくさんあるだろう。
アルゴトレードクオンツ
アルゴトレードクオンツの将来性のイメージとしては5段階で3.5くらいだろう。高頻度取引はエクイティから始まり為替にも広まり、現在は債券にも進出してきている。使うモデルはデリバティブに比べて数学的にそこまで複雑ではないが、確率統計、時系列分析、最近では機械学習など、数理的な素養が必要である。それよりも重要なのはプログラミングである。アルゴトレードクオンツはかなりIT寄りの仕事であり、数学よりITスキルが重要となってくる。また、エクイティや為替など、それぞれのマーケットに関するアノマリーやマーケットマイクロストラクチャーの理解が必須となる。
アルゴトレードクオンツの将来性は、安泰というわけではないだろうが、しばらくの間は多くの仕事があるだろう。実際に管理人が見ている限り、日本のクオンツの求人広告でいま最も多いのはこのアルゴトレードクオンツかもしれない。最近では電子取引が一般的となり、マーケットメイクもアルゴが自動で行う時代がやって来ている。需要が増えた一方で、この業務の経験者がデリバティブクオンツなどと比べてかなり少ない、といったことが要因となって求人が多く見られるものと思われる。しかし現在のような需要が将来的に続くかというと、少し不確実性が高い気もする。
バイサイドのクオンツ
最後にバイサイドのクオンツである。クオンツアナリストとクオンツファンドマネージャーに分かれるが、クオンツアナリストは定量的な分析を行い運用モデルの開発を行う人たちである。それに対して、クオンツファンドマネージャーは、クオンツアナリストの分析やモデルに基づき、ポートフォリオのリバランスなど実際の取引指示や、運用モデルの挙動の監視、レポート作成、顧客説明、といったことをしている。この2つの垣根は低く、会社によっては両方兼務のような形になっているかもしれない。
バイサイドのクオンツの将来性のイメージとしては5段階で4くらいだろう。最近ではグローバルバンクも、規制コストの高いセールス&トレーディング部門を縮小して、資産運用ビジネスに力を入れている。資産運用においては、昔ながらのジャッジメンタルでの運用も根強く残っているようだが、クオンツ運用やAI運用と呼ばれるスタイルもかなり増えている印象だ。このような定量的な分析に基づく運用は、アクティブ運用とパッシブ運用に分かれるが、いずれにせよ数理とプログラミングに詳しいクオンツ人材が求められている。今後についても、資産運用ビジネスの拡大、利用可能なデータの増加などに伴い、バイサイドのクオンツの仕事は増えていくものと思われる。
まとめ
以上、4種類のクオンツについて将来性を予想してみたが、セルサイドからバイサイドへ、また、デリバティブからその他の分野へ、トレンドが移り変わっていると思われる。