今までいろんなプライシングモデルの記事を書いてきたが、ここでプライシングモデルの全体像を確認しておこう。大きく分けて以下の3種類がある。
⑴マーケットクォートに使うモデル
⑵バニラオプションのプライシングモデル
⑶エキゾチック商品のプライシングモデル
⑴については、厳密にはプライシングモデルではないのだが、よくプライシングモデルとして紹介されているので、ここに含めている。これはバニラオプションの価格をボラティリティの形に変換するためのモデルである。具体例としては、Black-Scholesモデル、Blackモデル、ShiftedBlackモデル(DisplacedDiffusionモデルとも呼ばれる)、Bachelierモデル、などがある。これらは価格単位の変換公式として使われるのみであり、価格が不明の状態から価格を求めるのには使えない。なぜならそれにはインプライドボラティリティが必要なのだが、インプライドボラティリティはそれ自体が価格だからである。結局のところ、価格が不明の状態だとお手上げになる。
⑵については、バニラオプション専用のプライシングモデルであり、スマイルモデルやスマイル補間モデルなどとも呼ばれる。具体例としては、SABRモデル、Vanna-Volga法、SVI、Hestonモデル、Andreasen-Hugeの方法、Kahaleの方法、など、非常に多くのモデルや方法が存在する。
⑵のモデルの用途はスマイルの補間や補外であり、言い換えると、「ひとつの原資産のひとつの満期における分布」を求めることである。スマイルを連続的に補間できれば、そこから密度関数が得られる。
ここで大事なのは、こうして求められるのはあくまで「今日から見た将来の確率」であり、ターミナル確率などとも呼ばれる。これに対して⑶のエキゾチック商品のプライシングモデルの多くでは、「将来から見たさらに将来の確率」を求めるのが目的であり、フォワード確率や遷移確率や推移確率などとも呼ばれる。
⑶はエキゾチック商品のプライシングモデルである。具体例は、ローカルボラティリティモデル、確率ローカルボラティリティモデル、などである。これら2つはいずれも、原資産のスマイルを表現できる。
⑶のモデルは言ってみれば「明日の段階で予想した明日、つまり明後日に雨が降る確率」である。これは当然ながら明日の天気に依存するので、条件付き確率としてしか求められない。イメージとしては、明日が晴れだった場合に明後日に雨が降る確率と、明日が曇りだった場合に明後日に雨が降る確率とは異なる、というのはわかるだろう。このような条件付き確率のことを遷移確率や推移確率などというが、これを求めるのが⑶のモデルの目的である。イメージとしては、将来の各時点と各状態における遷移確率のマトリックスを求めるのに使う、と捉えておけばよいだろう。
⑶のモデルは、原資産が単一のモデルと、複数のモデルに分けられる。複数のものは相関を適切に考慮する必要があり、これまたいろんなバリエーションがある。ローカルコリレーションモデルなどがそれだ。用途としては複数の為替に依存するChooserTARNや、複数の株価に依存するバスケット型のオートコーラブルなどの商品に使う。
⑶のモデルの中には、特殊なものとして、金利の期間構造モデルが含まれる。金利のエキゾチック商品や、金利為替、金利エクイティなどハイブリッド商品の金利部分に使う。期間の異なる金利を全てまとめてモデリングするので、複数の原資産を同時にモデリングしているといえる。これを言い換えて、イールドカーブ全体をモデリングする、と書いている文献も多いが、要するに、期間の異なるたくさんの金利をまとめてモデリングしているわけである。イメージとしては、将来の各時点と各状態におけるイールドカーブのマトリックスを求めるのに使う、と捉えておけばよいだろう。
この金利の期間構造モデルの中には、さらに、金利のスマイルを表現できるものと、そうでないものがある。表現できるのは、確率ボラティリティのLMMや、確率ボラティリティのCheyetteモデル、Markov汎関数モデル、などである。これらはスマイルと期間構造を両方表現できる。スマイルを表現できないのは、ATMしか使わないLMMや、Hull-Whiteモデル、などである。他にもショートレートモデルはたいていスマイルを表現できない。
さらに、⑶のモデルの中には、金利の期間構造モデルと組み合わせたハイブリッドモデルというのがあり、具体例としては、HW-HW-BSモデル、HW-HW-LocalVolモデル、などがある。これらはコーラブルな為替エキゾチック商品や、コーラブルな株式エキゾチック商品などのハイブリッド商品のプライシングに使う。